Neetel Inside 文芸新都
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「犬」


犬が雨音を聞いている、ひと気の絶えた街なかで
ぬれた街灯が間をおいて灯る
川を見下ろす遊歩道のわきの
サドルのない自転車が消えかかる

犬が雨音を聞いている、とぎれなく流れる雲のもとで
家並みは黒い森のように毛羽立っている
雨つぶのおどる水田のきわに
うずくまるカエルと傘がある

ぶらさがる影は耳たぶのように
ごうごうという轟きにゆれる
窓からの明かりと屋根の雨だれが
アスファルトのひびの一つに落ちる

どこかでむずかる赤子をだく母の手が
濁流の川底から悲痛な静寂をすくいあげる
そのかたわらで、犬は泣きもせず、笑いもせずに
やぶれかぶれな雨の響きに、ただひたすらに聞き入っている



(2020/5/15 Fri.)

       

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