「失礼致します。ゴンゾウ様をお連れしました。」

 シズカの声だった。



「お通ししろ。」

 サブロウが短く返事を返すと、扉が開いた。



 シズカとチグサに導かれ、室内に入って来たのは身長が二メートルはあろうかと思うほどの大男。虎のような眼差しに、周りを圧倒するかのような威圧感を放っている。まぎれもなくゴンゾウだった。



「サブロウ。此度の尽力、まことに感謝する。」

 ゴンゾウが頭を下げようとするの見て、サブロウが慌てて駆け寄った。



「頭を下げるのは私の方です。貴方が居られない間、私たちは何も出来ませんでした。」

「お前の恩は生涯忘れん。」



 サブロウは頷くと、ゴンゾウを最も奥の椅子に着くよう促した。



 そこはかつて先代組長の席だった。サブロウは組長代理となっても、そこに着こうともしなかった。今、その席にゴンゾウが座った。



「サブロウ。兵は如何ほどある。」

「我らだけで二十四人。他の組を合わせれば百人ほどになるでしょう。」



「少ないな。だが、いずれの者も一人が十人に相当するだろう。」

「仰る通りです。そして、この戦に際して、六文組からは助っ人を用意させて頂きました。」



 サブロウが左手を上げると、左奥の部屋から二人の男が入って来た。

 一人は白い着物を身に纏い、顔に白い化粧をし、三尺ほどの日本刀を腰に差した男。もう一人は顔の下を赤いバンダナで隠し、迷彩服を着た男だった。



「この着物の男の名はウンノ・ソウジ。二十二歳と若いですが、居合の腕は確かです。ソウジ、ご挨拶を。」



 ソウジは頬が裂けんばかりに口角を上げると、白化粧の中に浮かぶ血走った目をゴンゾウに向けた。



「あたしの名はウンノ・ソウジ。あんたに着いた方が面白そうだったから此処に来た。弱ければ弱いほど、当たったときは大きいからね。」



 サブロウが窘めようとするのをゴンゾウは右手で制した。

「ソウジか、面白い奴だ。そのいで立ちは、世に名を広める為のものか?」



「いいえ、ゴンゾウさん。この服装の方が相手を斬ったとき、綺麗に映えるからね。」

 今にも怒り出しそうに顔を赤くしたサブロウを制しながら、ゴンゾウは口元を綻ばせた。



「ゴンゾウ様、ソウジは若年ゆえ、ご容赦ください。」

 サブロウはコホン、と咳払いをすると、もう一人の男を指した。



「この男の名はカケイ・イシン。無口で愛想は悪いですが、早打ち、狙撃には抜群の技量をもつ銃の名手です。イシン、ご挨拶を。」

 イシンは一歩前に進むと小声で何かを呟いた様子だった。



「イシン。悪いがこのジンパチは齢七十六ゆえに耳が遠くてのう。老いぼれに聞こえるように言ってくれぬかのう。」

 ジンパチはイシンの口元に耳を寄せると、その後からからと笑った。



「ゴンゾウ殿。イシンは、声が小さいゆえにご容赦ください、と申しておりますぞ。」



 ゴンゾウは微笑んだ表情のまま、真っ赤な顔で俯いているサブロウの肩に手を置いた。

「よい。心強い者たちだ。」



 ジンパチは二人に席へ着くよう促すと、周辺を見回す素振りをした。



「そういえば、今日はお傍に呂角がおりませんのう、ゴンゾウ殿。かの娘は何処に?」

「呂角は仕事だ。ナカムラを始め、我に立てついた者たちは生首となっているだろう。」



 室内でおお、という声が漏れた。



 戦はもう始まっている。サブロウ達の表情が一層に引き締まった。



 ゴンゾウは腕組みをし、一人一人の表情を確認するように見回した。

「よいか六文組の衆よ。状況を鑑みつつ、まずは龍門会を攻める。だが、今滅ぼす必要はない。我らの存在を植え付け、十年前の恐怖を思い出させてやればよい。」



 そして最後に、ゴンゾウはサブロウに顔を向けた。

「サブロウ。今日よりお前は六文組の長だ。皆を率い、雄々しく戦え。」



 サブロウは、身体中から上がる気炎を抑えられなくなってきた。



 夢にまで見た光景が、今目の前にある。戦に敗れ抱いた慙愧の念。屈辱に塗れた十年間。全ての記憶が走馬灯の様にサブロウの脳内を駆け巡った。



 お頭。天より我らの戦をご照覧あれ。



 深々と頭を下げたサブロウの肩は震えていた。