Neetel Inside ニートノベル
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 千寿に生きる者全てが、呼吸を止めた。



 まるでヤハウェの裁きによる滅びが一夜に起きたかのようだった。



 淫ら行いに耽り、不自然な肉の欲の満足を追い求めた者達が、永遠の火の刑罰を受けた。



 狂乱の騒ぎの中で、ライゾウは目を覚ました。



 地が轟音と共に大きく揺れ、地下にまで陸の狂騒が聞こえる。



 慌てて外に出た時、目を疑う光景が其処にはあった。



 千寿中央に聳え立つ高層ビル群が紅蓮の炎に包まれ、黒煙と共に崩れ落ちていく。



 千寿の何処からでも見れるシンボルタワーは焼け落ち、大小の瓦礫が飛び散った。



 目の前に広がる焔は、かつて千年の栄華を誇った都の中心地を焼いている。



「ライゾウ様!」



 振り返ると、息を切らしたアカメが立っていた。



「アカメ、何が起こっている。これは夢か、幻か。」



「目を疑う光景ですが、現実です。強い風が東に向かって吹いていますが、万が一に備えて避難を。」



 アカメに背中を押され、ライゾウは漸く足を前に動かした。



 ただの火災ではない事は分かっている。紛れもなく、あの男が関わっている。だが、その目的も、動機も分からない。千寿で生まれ、千寿に育ち、千寿の王となった男が、自らの都に火を放った意味は何か。



 通りを抜けたとき、ライゾウの足がとまった。一瞬、恐ろしい予感が頭に去来した。



「俺の考えが甘かったのかもしれんな、アカメ。全ての闇を消し去る、そんな事が出来るはずがないと思っていた。だが、奴は――」



 ライゾウは振り向くと、地上の火に照らされた天に、黒雲が渦巻いていた。



 まもなくこの炎は消える。だが、千寿には豪奢な戦火が点けられた。



 焔の向こうから、唄が聞こえてくる。







 ああ、罪深い国、不義を負う民、悪をなす者の末、堕落せる子らよ。



 彼らは主を捨て、聖者をあなどり、これを疎んじ、遠ざかった。



 あなた方は、どうして重ね重ね背いて、なおも打たれようとするのか。



 その頭はことごとく病み、その心は全く弱り果てている。



 足の裏から頭まで、完全な所がなく、傷と打ち傷と生傷ばかりだ。



 これを絞り出すものなく、包むものなく、油をもって和らげるものもない。



 かつては忠信であった町、どうして遊女となったのか。



 昔は公平で満ち、正義がその内に宿っていたのに、今は人を殺す者ばかりとなってしまった。



 あなたの銀は塵となり、あなたの葡萄酒は水をまじえ、 あなたの司達は背いて、盗人の仲間となり、皆、賄賂を好み、贈り物を追い求め、孤児を正しく守らず、寡婦の訴えは彼らに届かない。

あなた方の国は荒れ廃れ、町々は火で焼かれ、田畑の物はあなた方の前で異国人に食われ、滅ぼされたソドムのように荒れる。



 あなた方ソドムの司達よ、主の言葉を聞け。



 あなた方ゴモラの民よ、我々の神の教に耳を傾けよ。



 あなた方の手は血まみれである。



 あなた方は身を洗って、清くなり、わたしの目の前から悪を行う事を止め、善を行う事を倣い、公平を求め、虐げる者を戒め、孤児を正しく守り、寡婦の訴えを弁護せよ。

       

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