Neetel Inside ニートノベル
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 三日前、全身を啄まれる痛みで起こされた。見知らぬ天井が見えたとき、自分の置かれた状況どころか、眠りについた経緯も分からなかった。病室のベッドに寝かされている事、胸元に巻かれた包帯や、点滴の管が繋がっている右腕に気付いてから、手繰り寄せる様に記憶を思い起こそうとするも、まるで頭が働かなかった。



 頭を抱えて考えあぐねていると、病室のカーテンが開いた。



 目の前には、ツツジと名乗る女医がいた。肋骨が折れ、全身に軽い火傷を負った状態で診療所へ担ぎ込まれたという。その後、ツツジから髑髏の面を渡されたとき、脳内にサキの姿が去来し、全てを思い出した。



 建物全体が炎に包まれ、自分は三階の窓から飛び降りようとした。だが飛び出す直前に、背後からの猛烈な熱風に弾き飛ばされ、大地に叩きつけられた。まるで幼い頃、母が自分を逃がす為にベランダから放り出したときにも似た感覚だった。



 ツツジに経緯を話すと、彼女はすぐに自宅へ連絡をした。そして十分ほど経った頃、血相を変えたサキが診療所へ駈け込んで来た。目があったとき、サキは傍に寄ってきて、吸い寄せる様に唇を重ねてきた。



 生きている。そう実感したとき、身体中の力が抜けた。



 だが、診療所の三日間は地獄の様な日々だった。



 尻に秘伝の座薬を詰め込まれたり、酷く染みる液体を全身に塗られた。驚くべき速度で回復して退院するも、ツツジの診療所にはもう二度と行くまいと誓った。



 その夜、退院祝いとして、サキをディナーに誘った。



 身なりを整え、ホテルのレストランで彼女とグラスを合わせた。青いドレスを着たサキは美しかった。目鼻立ちの整った氷の美貌が映え、まるで艶やかな女神の様だった。



 他愛もない話をしながら、二人で窓に映る千寿の夜景を見た。



 以前に比べて灯は少ない。だが、静かで、平穏だった。そして、星が何倍も美しく見える。



 サキは此方に顔を向けると、微笑みを浮かべた。



「ウツミ・タクヤは、コーポスは、これからどうするの? 今が、髑髏の仮面を脱ぐ機会なんじゃない?」



「私はこれからも、コーポスであり続けるよ。平穏な千寿が、いつまでも続く様に。」



「それが、ウツミ・タクヤの魂だもの、ね。」



 闇の勢力は消え、千寿には光が照らされた。やがて、コーポスも必要なくなるだろう。だが、代わりに得たものがある。それは、アイハラ・サキという掛け替えのないパートナーだ。今後も、自分はコーポスとして、影から千寿の人々を見詰め、護る。彼らは勇気を振り絞り、自らの手で闇を払った。彼らは、目に見えぬ以上の力を持っている事を知った。



 私はウツミ・タクヤ。又の名をコーポス。この平穏が、いつまでも続く事を祈りながら、命ある限り、此処で、生き続ける。

       

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Neetsha