Neetel Inside ニートノベル
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「私はこのワヘイ王国の使者なんです」とルナは名乗った。

「王から魔王を倒す勇者を探して、魔王を討伐する勅命を受けました」
「そうなんだ……たいへんだね」

 宿屋の中は活気に満ちている。冒険者たちで夜はごった返している。

「ようやくツヨヒコさんを見つけられてほっとしています」
「うん、それはよかった。俺が手伝えることなら、役に立ちたいけど……本当に俺に魔王を倒す力なんてあるのかな?」
「大丈夫です。あなたには隠された力があるんです。それをこれから国王にお見せしにいきます」
「え、王に会うの?」

 俺は偉い人に会うのが苦手だ。いつも俺を差別してくる。

「大丈夫です。わたしも一緒ですから」
「ならいいけど……」

 俺は酒場のビールを飲みながら、ため息をついた。





「そなたが勇者か」

 王は少女だった。まだ小学生高学年くらいだろう。偉そうに玉座にふんぞり返っている。


「我こそはワヘイ王国二十四代目国王・チョットマダ・ハヤカローナだ」
「はあ……」
「勇者よ。我にそなたの力を見せてみい」
「そんなこと言われましても」

 平伏しながら困惑する。

「ステータスはどうなんじゃ」
「ステータス?」
「ステータスオープンと言うてみい」

 そのとおりにすると、空中に俺の個人情報数値がホログラムで表示された。

「おお、ゲームみたいだ」
「わけのわからんことを言うでない。で、能力値の総合は?」
「えっと……いちばん下に最高、とあります」
「ならばそなたは勇者じゃのう」

 簡単な査定だ。

「そなたには困難もあるじゃろうから、必要な物資はすべて国庫から出す。旅の支度ができるまでしばらく待つがよい」
「はあ……」
「我が王宮は最高級ホテルのようなものじゃぞ。見晴らしもいいし、いい気分転換になろう。前世では相当苦労しておったそうじゃな」
「そうなんですよ」とルナがうなずく。
「なんでも、ニホン、というひどい国にいたみたいで」
「ニホン……古文書にある悪法がはびこる野蛮な国家と書いてあるのを見たことがあるが、数千年前に滅びたはずじゃぞ」
「関係あるんですかねぇ」

 俺に聞かれても……

「為政者は一人でよい。民主主義など不要。わが国家はチンが国家なり、じゃ。我の意向が太陽の傾きの次に優先される。運命のようにな」
「すごいですね」
「そうじゃ。だからそんなすごい我に見込まれたのじゃ、そなたは。光栄に思え」
「はい。でも、俺に魔王なんて倒せるんですか?」
「倒せるからこそ、そなたは勇者なんじゃ。魔王を倒せぬ勇者などおらぬ」

 それも妙な理屈だが……

「とにかく、部屋を与えるからそこで休むがよい。出発は後日連絡する」
「わかりました」
「よかったですね、王に気に入られましたよ」とルナは上機嫌だ。そうなのだろうか。

 人から好かれたことなんてないから、わからない。



 ○



 驚くべきことにテレビが与えられた。なんでも宮廷魔道士のヤッチャイケナ・イコトヤールという女魔道士が作った、俺がいた世界と通じるテレビだそうだ。
 俺はためしに電源を入れてみると、ニホンの世界が映った。コロナで大混乱している。
 だが、驚くべきことに緊急事態宣言を21日に解除するなどと言っている。バカな。俺はベッドに座り込んだ。スペイン風邪のときのことを忘れたのか?
 外出自粛で感染者数が日割りで減ったのを目安に自粛解除をした途端に感染者が爆発的に増加したのだ。当たり前だ。せっかく玄関に鍵をかけていたのに、誰も襲ってこないからと開けたようなものだ。外で待ち構えていただけなのに。
 なんて愚かなんだろう、ニホンの政府は。俺が独裁した方がまだマシだ。俺なら10月まではこの完全自粛モードを継続させる。各世帯への給付もベーシックインカムという形で給付。家賃収入で食っているクズどもには家賃の請求権を凍結。今までの黒い金で生きろと締め上げる。不動産で生きている連中なんて干上がったところで代わりがいる。自粛のせいで営業できない観光業や飲食業などにこそ支援すべきだろう。
 それに俺のようにコロナによる自宅待機で自分が働くべき人間ではなく、家にいるべき人間だと再認識した人間もいる。外にいく理由なんてない。飲みたくもないコーヒーを飲みに行くだけだ。緊急事態宣言が解除されたら自宅待機もなくなってしまう。そんなことは赦されるべきじゃない。
 俺はため息をついてテレビを消した。異世界へこれて本当によかった。あんな国にいたら命がいくつあっても足りない。まあ、その代わりに魔王を倒せなどと無茶を言われたが……ステータスを再確認したが、すべての数値がマックスをはじき出している。いまのところ、これとルナという少女を信じるほか、俺に道はない。

 異世界にも夕方がくる。俺は柔らかい布団にこもった。自慰はどうすればいいんだろう。とりあえずしごいて、部屋のすみの痰壷の中に射精した。奴隷階級が掃除するだろう。俺の知ったことじゃない。俺は前世で、奴隷だったんだ。少しくらい、ラクさせろ。


       

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