Neetel Inside 文芸新都
表紙

モンスター大図鑑
第四話

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タイトル: 深い森のやさしいねこ 作者名: 未鳥
モンスターの名前(種族): ねこ 属性: 着ぐるみ系ダンディズム
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ある日、森の中、ねこさんに出会った。
暗く深い森の中、ねこさんに出会った。

「って、のんきな話してる場合じゃないのですよ、お嬢さん」

言葉を話し、優雅に踊るねこが目の前にいて、現実逃避するな、という方が無理に決まってる。
というか、なに、その……。
背中のチャック……。

「これは絶対に開いてはいけないのだよ。 ふふ、秘密は人を素敵にするね」

いや、アンタそもそも人じゃないでしょ。
というか、一応、モンスターなのかしら……?

「こんな愛くるしい姿の私を、モンスター……化け物扱いだなんて、ひどい、ひどすぎるわッ!」

いや、でかい図体を丸めて嘘泣きされても困るし……。

「まぁ、良い。 私の愛らしい姿に免じて許してあげよう」

愛らしいって言うか、微妙に怖いわよ、その姿。
っと、そうだった……。
私、道に迷ってたんだったわ。

「ふむ、街に出たいのかね。 それだったらこの道を少しだけまっすぐ進んで、左折した先、3丁目の煙草屋さんの前のマンホールに入って、水の流れる方向へ進み、4つ目の梯子を登ればいいはずだ」

長いな、オイ。
むしろ、何でマンホール……。

「ふふ、覚えられないなら、この道をまっすぐ行けば街に戻れるぞ」

いや、最初からそう教えてちょうだいよ……。
私は礼を言って、ねこさんと別れた。

「ふふ、私のチャックを見てあれだけしか興味を示さないとは……。 罪作りなお嬢さんだ……」

ある日、森の中、ねこさんに出会った。
暗く深い森の中、ねこさんに出会った。


ぁ、チャック、開いてくればよかった……。
中に何が入ってるんだろう、気になる、気になるっ!!

結局、私は一睡もできず、気づけば朝を迎えていたのでした。

End

     

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タイトル:彼の生態   作者名:ルポライターさとみ
モンスターの名前(種族):ウェアウルフ
属性:変身
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 ――彼が居るのは、灼熱の亜熱帯のような場所だった。
 薄暗く、視界も悪いその場所で、彼は虎視眈々と己の標的を待ち続ける――。

 それが私に事前に教えられた、彼の生態の一つだった。
 尤も、ルポライターの私が彼を見つけたのは、確かに暑かったものの、灼熱という程ではない、しかも視界の良い開けた場所だったが。
 謎の生態を追う上ではこういう情報の誤差は付きもの、何にせよ二足歩行で毛むくじゃら、大きな猫のような容貌をした獣という大きな特徴があったので、彼だと特定するのに迷いは無かった。
 今から書くのはその時の私の手記である、これによって、彼の生態がより多くの人々に伝わることを切に願っている――。


 彼の標的は専ら自分より体の小さな者だった。
 近付いてくれば、その毛むくじゃらで大きな体躯を活かし、圧倒的優位な体勢から猛然と襲い掛かる。
 抱きかかえ、標的が暴れようが悲鳴を上げようが関係なく、己の欲望を満たす。
 そんな獰猛な性格の彼の元に、また一人、憐れな被食者が現れた。

「アーヌ、イグルミダ!」

 現地語であろうか、そんな言葉を叫んでは、何を思ったか彼に悠然と近付いて行く。
 勿論、彼もこのようなチャンスを見逃すはずも無く、両腕で抱え込み、晒し者にするが如く天高く被食者を掲げる。 

「キャー!」

 憐れなる被食者、悲鳴を上げても時既に遅し。
 圧倒的な体躯差から逃れる事は出来ず、じたばたと暴れるだけで精一杯だ。
 だが、最早命運も尽きたかと思われたその時。
 なんと被食者側の群れがぞろぞろと、彼の目の前に集って来たではないか。

「アーヌ、イグルミダ!」
「ダッコー!」
「ズルーイア、タシモー!」

 幾ら体格差があると言っても、数十は居るであろう群れの前では、彼も成す術がない。
 立ち慄き、折角捉えた被食者をも手放して、その場から逃げ出さんとする彼(※図参照)。
 
「マッテヨー!」
「ダッコシ、テヨー!」

 被食者側の勝利の雄叫びが空高らかに響く。
 まさかの結末、興奮冷めやらぬ私はそんな雄叫びも尻目に、彼が逃げ去ったであろう己の縄張りに潜入しようと後を追った。


 ――私は戦慄した。
 彼の縄張りは、まるでプレハブの人家のような造りであったのだ。
 先住民を襲って己の縄張りにしたのであろうか、仮にそうであるとするならば、恐ろしく高い知能を持ち得ている証拠になる。
 私は恐る恐る、高い知能に気付かれぬようにそっと、窓から縄張りの内部を観察する事に成功した。
 そこには――。

「ジキューキュ、ウヒャクエ、ンジャワ、リニアワナイ、ゼコノバイト……」
「モットイ、イバイトナ、イカナー?」
 
 なんとそこには獣の姿ではない、れっきとした人間の姿の彼らが居たではないか。
 しかも意味は良く分らないが言語も交わし合ってる、まさか彼らが伝説の獣人(ウェアウルフ)だったとは――。

「オイ! カーテンア、ケッパ、ナシダゾ! チャントシ、メロ!」 
「ア、ワリ-ワ、リー」
「コドモニミラ、レタラド、ウスル? ユメブチコ、ワシダ、ゾーマエ!」

 彼らの生態にもっと立ち入りたかったが、残念ながらこの謎の会話を最後にカーテンを閉ざされ、内部を観察する事が出来なくなってしまった――。
 

 ――以上が私が垣間見た彼らの生態である。

 信じられないかも知れないが、伝説の獣人ウェアウルフは確かに存在していた。
 普段は獣の姿をしているものの、己の縄張りの中に一度入れば人間と何ら変わらぬ姿に「変身」し、しかも言語を交わす知能までをも持っている。
 人間に限りなく近い知能を持っている彼らの存在に、そしてそれが我々人類に由々しき問題を与えてくるやもしれない可能性に。
 私はこの手記をもって世界広く警鐘を鳴らせればと願っている――。

 

     




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タイトル:猫の王国   作者名:やさぐれぱんだ
モンスターの名前(種族):ケット・シー(妖精)
属性:王族
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 男の名はカールス・リヒター・フォン・バルデベル。
彼はとある帝国主義国家の政治学者であったが、帝国の体制を批判し民の国家からの解放を主張した論文を学会で発表し、国賊として祖国を追われた。
彼は民主主義思想を認めてくれる国への亡命の旅の途中だった。
帝国騎士団の追手を掻い潜り、その戦いで従者をまた一人また一人と失い、ついに彼は一人となった。

「嗚呼、遂に私一人になってしまった。従者を失い、食料は尽き、愛馬には見捨てられ、自分の身を守る武器さえも失ってしまった。されど、あの国への道程はまだ遠い。私もここまでだろうか」

 彼の視界の向こう、荒野は果てしなく続いている。
狂ったように風が吹き荒び、彼の弱った身体を蝕んでいく。
そして遂に、彼は力尽き地に崩れ落ちてしまう。
闇夜に浮かぶ朧満月に、彼は祖国でそして道中で犠牲になった者達の名前を呼び続け、その一人ひとりに謝罪の言葉を添えた。
貴族である彼の両親は国賊を生み育てた者として騎士団に処刑された。
従者達は、騎士団の追手から彼を守るために、身を盾にして騎士達の剣と火矢に飛び込んで行った。
その中には、彼の弟子も居た。
その全てに謝罪を終えると、死を覚悟して彼は瞼を閉じた。
来世における、民が国家の隷従を強いられない時代の到来を夢見て。




「おい、起きろ」

 野太く荒々しい男の声に、彼は目を覚ました。
既に来世に来てしまったのかと、彼は自分の身体を見回したが、そこには見慣れた自分の掌の皺とぼろぼろになった自前のローブがあった。
彼は自分が未だ生きている事を天に感謝したが、目の前の男の姿に自分の置かれた状況を理解し愕然とした。
彼は囚われの身となっていたのだ。
厚い鉄板でできた全身を覆う甲冑に、身を包んだ背の低い男が牢の傍らに居た。
その甲冑は、彼の祖国の帝国騎士団の物では無かった。
他の国の騎士である事は確かであったが、其処が何処であるかは定かでは無かった。
甲冑の男は重厚な鉄格子の向こうから、彼を四六時中監視していた。
男は必要以上には喋る事は無い、寡黙な男だった。
男が持ってくる食事は、彼の命を繋ぐには十分な程の量が出され、味もまた彼の祖国には無い味であるものの容易に受け入れる事が出来る程の美味な物であった。
彼は、牢の中で何をするでも無く過ごし続ける日々に退屈を覚えていた。

「貴方はこの国の騎士か。一体、此処は何処なのだ」
「さあな」
「私はどの位眠っていた。帝国騎士団の追手はどうしたのだ」
「さあな」
「何故、私は此処に捕らえられているのか」
「さあな」

 退屈凌ぎに、彼は同じ質問を甲冑の男に繰り返した。
その問いに、男は決まって白を切る。
日々その繰り返しを続け、彼がその遣り取りにも退屈を覚えてきた頃、甲冑の男がいつもと違う言葉を彼に投げ掛けて来た。

「王がお呼びだ。牢から出ろ」

 牢から出ると、石壁に包まれた長い廊下を進む。
牢の守衛室で、強制的に身体を洗われ、真新しい綿のローブを手渡され着替えるように言われた。
それに着替え、男に連れられ王座に通された。

「連れて参りました」

 男が王を前に、膝を付いて座った。
彼は、その国の王を目の前にして膝を付く事も忘れ呆然としていた。
彼の視界に映った玉座に座す王の姿は、人間程の大きさが有る白色の猫だった。
その時、彼は人語を喋り二足歩行で歩く猫の妖精であるケット・シーの伝承を思い出していた。

「驚いているかね、無理も無い」

 猫の姿をした王は手にした杖を振るい、甲冑の男を王座の間から下げさせる。
王座の間には、彼と王の二人が残った。
猫の王はその顔に微笑を浮かべると、彼に歩み寄った。

「見ての通り私達は人間の世界ではケット・シーと呼ばれている存在だ。私は人間の世界に行った事があるが、人間の姿を見るのは彼此20年振りだろうか」
「お初にお目に掛かります。私はカールス・リヒター・フォン・バルデベルという者です。国賊として国を追われる前、祖国では政治学者をしておりました」

 彼はケット・シーの王に膝を付けて座し頭を垂れる。

「私は、この王国を治めるカールス21世と呼ばれている。王座に就くまでは別の名前であったが、それは話さなくとも良い事だろう。会えて嬉しく思うぞ、カールス」

 彼と同じ名のケット・シーの王は、気さくな笑顔を浮かべ彼の手を取り立たせた。
それから、ケット・シーの国の話、彼の祖国の話、彼が掲げた論文の話等互いの世界の話を二人は交えた。
話を続ける内に、彼はケット・シーの王国の民の豊かで自由な生活に惹かれ、また王は彼の掲げる政治思想に大いに関心を覚えた。
二人の話は半日にも及び、それでも尚二人は話続けた。
彼はケット・シーの王の人柄を尊敬し、王もまた彼の人柄に惹かれ無二の親友を得たように思えていた。
その会話の最中、王は彼に奇妙な話をし始めた。
それは、ケット・シーの王国の成り立ちだった。

「500年程昔、この地は人間達の王国だった。しかしある時、その王国はある呪いに掛けられてその姿を失った」
「呪いと申しますと」
「それは人間が猫の姿になる呪いだった。その王国の民は忽ち猫に変えられた。その呪いは或る男が発端となり起こった物だった」
「或る男とは一体何者でしょうか」
「男はその国の王だった。男が民に行った圧政は、その地に棲まう精霊の怒りを買ったのだ。男は自分の愚かさを悔やみ、改心した。そして、猫の姿の民を集め、皆が平等に暮らせる王国を作った」

 王が仰る事によれば、人間の世界でケット・シーと呼ばれている妖精の根源は人間に在るという。
されど、猫にされた人間は、人間と交わって子を成す事は出来ないという。
猫の姿となった民は猫と姿となった者達と交わり、子孫を残していった。
この地で民が平等に暮らせる国を作り上げてから、地に棲まう精霊は怒る事を辞めた。
精霊は民を守り、国を守り、この国に繁栄をもたらすようになった。

「この話にはまだ話していないことがある」
「話しておられぬ事と申しますと」
「私は貴方の事が気に入ってしまった。貴方に全てを話そうと思うのだ」

 王曰く、この地に起こった呪いの元凶である人間の王は猫の姿にならなかった。
その王は民が猫の姿になった事に嘆き哀しんでいる姿を見、一つの決断をした。
人間の姿を辞め、民と同じ姿でその一生を終えることを選んだのだ。
そして、その王の一族は子孫代々猫の姿で生まれ、猫の姿で死んでいく事が運命付けられた。
王族には一つ、定められた掟が在った。
それは王の血を引く者は神聖な者として、その背の毛並みを民には晒してはならないという事だった。

「これが我が王国の、王族だけしか知らぬ真実だ」

 王は彼に背を向け、その召し物を捲り上げた。
王は、背中に在るそれを開くよう彼に命じ、彼はそれに応じた。
王の背中のそれが開かれると、そこから現れた者の美しい姿に彼は目を奪われた。
その美しき者は彼に向き直り言った。

「貴方に私から頼みが有るのだ。私の終生の伴侶となってくれぬか」



 広場が群集で満たされた頃、白き猫の王カールス21世がバルコニーに現れる。
手を振り、民に笑顔振りまき、王はふと隣に目をくれる。
そこには、王と同じく王族の衣に身を包んだ白い雌猫の姿があった。
王は彼女に微笑みかけ、また彼女も微笑を返す。
民は、王と彼女の成婚を祝い、歌を歌い、美酒に酔い、三日三晩踊り明かした。
新しき王妃の名はカルスと言った。
彼女もまた、その生涯を終えるまで民には背の毛並みを見せる事はなかったという。




――fin.

       

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Neetsha