青春小説集「リンだリンだ」追加
「亀田を止めるな!」
※本編には残酷な描写が含まれております。苦手な方はご注意ください。
noteで日雇い時代の話を書いていて思い出したことがある。映画撮影スタッフに加わった時に遭遇した出来事だ。私は資材搬入スタッフとして撮影期間中雇われていた。もちろん演技や撮影などのややこしい作業は担当せず、細々とした掃除やら荷物運びやらの雑用係である。ゾンビ映画の撮影として、山中にある廃墟へと向かった。派遣アルバイトではそういった、普段では経験できない職種にも触れられるメリットがあった。
監督も役者も知らない人だったが、その廃墟だけは素人目にも本物だと実感できる凄みがあった。戦時中に浄水場として建設されたというが、実際は人体実験が行われていたとかなんとか。廃墟となってからも、戦争時代の生き残りが自分の息子を使って人体実験を続けていた、という恐ろしい噂を、メイク係の里崎さんが教えてくれた。
ゾンビのメイクをした男優が女優に襲い掛かったり、作り物の首が飛んだりする撮影が進む中、休憩中に事件は起こった。私たちは持参していたお菓子を食べていた。外で煙草を吸っていたはずの照明スタッフの城島さんが、突然ゾンビメイクをして建物の中に戻ってきて、カメラマンの古田さんに襲い掛かったのだ。噛みつかれた古田さんの首からは血が吹き出して痙攣して、息絶えたように見えた。
「映画撮影スタッフは、手の込んだドッキリを仕掛けるんだな」と私は冷めた目で見ていた。周囲も似たような雰囲気であった。ゾンビメイクをした城島さんは私たちを一通り見まわし、くんくんと臭いを嗅ぐと、廃墟の外へと出ていってしまった。
「もういいよ、古田くん」谷繁監督が声をかけても古田さんは応答しない。里崎さんが近づいて脈を取り「死んでる」とぼそっと呟いた。
「え」
「え」
「え」
「ほんとに死んでる!」
谷繁監督と、主演男優の中嶋君と、主演女優の阿部さんも、かわるがわる古田さんの死を確認していった。
「あの都市伝説は本当だったんだ……」
震えながら話し始める里崎さんを見ながら、私は心の中では「ここは都市ではない」と思っていた。戦中に行われていた人体実験とは、戦死した兵士をゾンビ兵士として活用するためのものだったという。戦争終結とともに研究組織も施設も解体されたが、一人諦めていない博士がいた。彼は監禁した息子に薬物を投与し、自らの仮説を証明しようとしていた。彼らはとある製菓会社から盗んできた食料だけを食べて過ごしていたのだという。
里崎さんはテーブルに散らばっていたお菓子を確認する。先ほどみんなで食べていたのは亀田製菓の「ソフトサラダ」だった。古田さんだけは持参していた「たけのこの里」を食べていたのだ。
「その親子は偏った食生活のために亡くなったそうよ。そして密かに実験が成功していた息子の方はゾンビとして蘇った。しかし亀田製菓のお菓子を食べ過ぎていたせいで、もう食べたくないから、亀田製菓のお菓子を食べた直後の人間は襲わない、と言われているの」
「古田さんもきのこ派だったら助かったのに……」と主演男優の中嶋君が呟いた。きのこの山は明治製菓だからどちら派であろうと関係ない。
「ちょっと待って。ゾンビに襲われたらどうなるの?」阿部さんが疑問を口にした。
「ゾンビに襲われたらそりゃ……」と中嶋君が言いかけたところで、古田さんの死体がむくりと起き上がった。
「ゾンビになるだろ!」
谷繁監督の声を合図のようにして私たちは逃げまどった。古田さんは中嶋君に襲い掛かっている。
「ソフトサラダ食べてるのに!」
「長くは効果が続かないんだ!」
中嶋君が襲われている間に、谷繁監督がたっぷりとお菓子を詰め込んでいたボストンバッグを手に取り、素早くみんなにお菓子を配っていった。亀田製菓のお菓子を食べ続けていないと襲われてしまうからだ。
「亀田を止めるな!」
谷繁監督の指示を受け、私たちは配られたお菓子を急いで頬張った。既に息絶えていた中嶋君を捨て、ゾンビ化した古田さんは廃墟の外へ向かっていく、かに思われた。
しかし古田さんはお菓子を食べて油断していた里崎さんに襲い掛かっていった。
「どうして……」首筋から血しぶきを上げる彼女が手にしていたのは柿の種だった。しかしそれは亀田製菓の「亀田の柿の種」ではなく、三幸製菓の「三幸の柿の種」であった。ゾンビは製菓会社の違いを理解している。谷繁監督と阿部さんと私は古田さんと中嶋君と里崎さんを見捨てて、廃墟の外へ駆け出した。ここに来るのに使ったハイエースが廃墟の外れに停めてある。その中には、まだ食料がある。亀田製菓のお菓子もたっぷり入っていたはずだ。
だが私たちは一つ忘れていた。最初にゾンビ化した城島さんは一体誰に襲われてゾンビ化したのだ? つまり、始祖であるゾンビがいる。都市伝説にある、実験材料とされた息子が。廃墟の外に出た私たちを待ち受けていたのは、ゾンビ化した城島さんと、その背後にいる巨大なゾンビ、その肩に乗る老婆だった。
「そういえば研究者は女性だったと聞いたことがある」そう解説する谷繁監督を私は信用しきれないでいた。彼は先ほど、柿の種が三幸製菓の物と分かっていながら里崎さんに配ったのではないか? 監督と里崎さんとは長年の仕事仲間で、夫婦同然の関係だと聞いていた。それが今回の主演女優である阿部さんに、谷繁監督が惚れている、という噂も聞こえていた。この機会を利用して、邪魔者になった里崎さんを監督は片付けたのではないか。
再び監督の「亀田を止めるな!」の声で我に返る。渡されたのは間違いなく亀田製菓の「まがりせんべい」であった。私が運んでいた大量のお菓子のほとんどが亀田製菓の商品だったことも納得できる気がした。全ては監督によって仕組まれたものだったのだ。彼は自分の映画の成功と愛人との清算を、両方同時に行おうとしているのだ。
だが事はうまく運ばない。
人体実験を成功させたほどの研究者ならば、たとえゾンビ化した脳みそであっても、特定の製菓会社の商品アレルギーくらい、克服する手段を考えつくだろう。かつての哀れな息子のなれの果てである巨大ゾンビの肩に乗った老婆のゾンビが、大きく口を開けて、赤黒い液体を吐き出した。直下にいた城島さんのゾンビが、ぽたぽたと落ちてきたその液体によって焼かれ、溶けていく。それを巨大ゾンビが口に入れた。
「おばあちゃんのぽたぽた焼き……だと!」
そう、亀田製菓の商品名と同じ製造工程で作り上げた自家製の食料を補給することで、ゾンビたちは自らの弱点を克服したのだ。
私たちに残されていたのは、絶望することだけだった。ソフトサラダを、柿の種を、まがりせんべいをいくら嚙み砕いたところで、巨大ゾンビと老婆ゾンビは私たちに向けて歩みを進めてきた。谷繁監督はとうとうお菓子を食べるのを諦めて、ハンディカメラを取り出した。
「俺は、映画監督だった!」
そう叫んで間近でゾンビを撮影しようと走り出した谷繁監督を置いて、私と阿部さんはハイエースを停めたところまで駆け出した。
だが、そこには既に古田さんと中嶋君のゾンビが先回りしていたのだ。彼らにはまだ亀田製菓バリアーが有効だったので、残り少なくなってきたお菓子を少しずつ食べながら、私たちはハイエースに乗り込もうとした。しかし車のキーがない。そういえば車を運転していたのは城島さんだった。彼が車のキーを持っているのだとしたら……。
谷繁監督を蹴散らしてきたらしい、巨大ゾンビの足音も近づいてくる。私たちはハイエースを諦め、ないよりはましだと、お菓子のたくさん詰まったもう一つのボストンバッグを手に車を出た。しかしそれが私たちにとって大切なものだと気付いたのか、古田さんと中嶋君の手により、あっさりバッグは奪われてしまった。そして中身をぶちまけられ、無数のハッピーターンの袋が弾け飛んだ。
それらが自分に害するものという認識はあるのか、古田さんと城島さんのゾンビが大量のハッピーターンの上で跳びはねる。私たちの命綱が粉々になっていく。粉々になったハッピーターンが空中に飛び散っていく。私は覚悟を決めた。こういう時は最後にヒロインと結ばれるのだろうと考え、阿部さんを抱き寄せようとしたが「え、何」と拒否された。
しかし私たちはゾンビに噛まれることはなかった。いつまでもエンドロールの始まらない映画のように中だるみしたクライマックスの中で、私たちはゾンビたちが天に昇っていくのを見た。古田さんが、中嶋君が、溶けた城島さんが、死んでまもない谷繁監督が、監督の足を引っ張って地上に引きずり降ろそうとする里崎さんが、みんな天に召されていく。最後には巨大なゾンビも幼い子どもの姿となり、優しそうな母親と手を繋いで空へと消えていった。
「そうか、粉々に砕けたハッピーターンが……」
ハッピーターンにまぶされている粉「ハッピーパウダー」は別名「魔法の粉」とも呼ばれている。粉の魔力とハッピーターンの本体が混ざりあうことで、粉塵爆発ならぬ粉塵昇天が起こったのだ。ゾンビ化した死人たちにさえ幸せをもたらす粉。絶望のどん底、死の淵にいた私たちに、思いもよらぬ生への希望を与えてくれた、まさにハッピーなターンというわけだった。
「たけのこの里食いてえ」と私は思わずつぶやいた。
「私はきのこ派」阿部さんは冷たかった。
ひと昔前は廃墟でのゾンビ化殺人など珍しいことではなかった。私たちは阿部さんの運転するハイエースで無事に街に戻り(私は免許を持っていなかったので)、別れた。次の現場でも彼女に再会したが、「はじめまして」と知らない人扱いを受けた。やはりきのこ派とたけのこ派は分かり合えない運命だったのだ。その現場ではロッテのお菓子を食べていれば襲われない、という設定のゾンビ映画だった。もちろん映画は全くヒットしなかった。
(了)
監督も役者も知らない人だったが、その廃墟だけは素人目にも本物だと実感できる凄みがあった。戦時中に浄水場として建設されたというが、実際は人体実験が行われていたとかなんとか。廃墟となってからも、戦争時代の生き残りが自分の息子を使って人体実験を続けていた、という恐ろしい噂を、メイク係の里崎さんが教えてくれた。
ゾンビのメイクをした男優が女優に襲い掛かったり、作り物の首が飛んだりする撮影が進む中、休憩中に事件は起こった。私たちは持参していたお菓子を食べていた。外で煙草を吸っていたはずの照明スタッフの城島さんが、突然ゾンビメイクをして建物の中に戻ってきて、カメラマンの古田さんに襲い掛かったのだ。噛みつかれた古田さんの首からは血が吹き出して痙攣して、息絶えたように見えた。
「映画撮影スタッフは、手の込んだドッキリを仕掛けるんだな」と私は冷めた目で見ていた。周囲も似たような雰囲気であった。ゾンビメイクをした城島さんは私たちを一通り見まわし、くんくんと臭いを嗅ぐと、廃墟の外へと出ていってしまった。
「もういいよ、古田くん」谷繁監督が声をかけても古田さんは応答しない。里崎さんが近づいて脈を取り「死んでる」とぼそっと呟いた。
「え」
「え」
「え」
「ほんとに死んでる!」
谷繁監督と、主演男優の中嶋君と、主演女優の阿部さんも、かわるがわる古田さんの死を確認していった。
「あの都市伝説は本当だったんだ……」
震えながら話し始める里崎さんを見ながら、私は心の中では「ここは都市ではない」と思っていた。戦中に行われていた人体実験とは、戦死した兵士をゾンビ兵士として活用するためのものだったという。戦争終結とともに研究組織も施設も解体されたが、一人諦めていない博士がいた。彼は監禁した息子に薬物を投与し、自らの仮説を証明しようとしていた。彼らはとある製菓会社から盗んできた食料だけを食べて過ごしていたのだという。
里崎さんはテーブルに散らばっていたお菓子を確認する。先ほどみんなで食べていたのは亀田製菓の「ソフトサラダ」だった。古田さんだけは持参していた「たけのこの里」を食べていたのだ。
「その親子は偏った食生活のために亡くなったそうよ。そして密かに実験が成功していた息子の方はゾンビとして蘇った。しかし亀田製菓のお菓子を食べ過ぎていたせいで、もう食べたくないから、亀田製菓のお菓子を食べた直後の人間は襲わない、と言われているの」
「古田さんもきのこ派だったら助かったのに……」と主演男優の中嶋君が呟いた。きのこの山は明治製菓だからどちら派であろうと関係ない。
「ちょっと待って。ゾンビに襲われたらどうなるの?」阿部さんが疑問を口にした。
「ゾンビに襲われたらそりゃ……」と中嶋君が言いかけたところで、古田さんの死体がむくりと起き上がった。
「ゾンビになるだろ!」
谷繁監督の声を合図のようにして私たちは逃げまどった。古田さんは中嶋君に襲い掛かっている。
「ソフトサラダ食べてるのに!」
「長くは効果が続かないんだ!」
中嶋君が襲われている間に、谷繁監督がたっぷりとお菓子を詰め込んでいたボストンバッグを手に取り、素早くみんなにお菓子を配っていった。亀田製菓のお菓子を食べ続けていないと襲われてしまうからだ。
「亀田を止めるな!」
谷繁監督の指示を受け、私たちは配られたお菓子を急いで頬張った。既に息絶えていた中嶋君を捨て、ゾンビ化した古田さんは廃墟の外へ向かっていく、かに思われた。
しかし古田さんはお菓子を食べて油断していた里崎さんに襲い掛かっていった。
「どうして……」首筋から血しぶきを上げる彼女が手にしていたのは柿の種だった。しかしそれは亀田製菓の「亀田の柿の種」ではなく、三幸製菓の「三幸の柿の種」であった。ゾンビは製菓会社の違いを理解している。谷繁監督と阿部さんと私は古田さんと中嶋君と里崎さんを見捨てて、廃墟の外へ駆け出した。ここに来るのに使ったハイエースが廃墟の外れに停めてある。その中には、まだ食料がある。亀田製菓のお菓子もたっぷり入っていたはずだ。
だが私たちは一つ忘れていた。最初にゾンビ化した城島さんは一体誰に襲われてゾンビ化したのだ? つまり、始祖であるゾンビがいる。都市伝説にある、実験材料とされた息子が。廃墟の外に出た私たちを待ち受けていたのは、ゾンビ化した城島さんと、その背後にいる巨大なゾンビ、その肩に乗る老婆だった。
「そういえば研究者は女性だったと聞いたことがある」そう解説する谷繁監督を私は信用しきれないでいた。彼は先ほど、柿の種が三幸製菓の物と分かっていながら里崎さんに配ったのではないか? 監督と里崎さんとは長年の仕事仲間で、夫婦同然の関係だと聞いていた。それが今回の主演女優である阿部さんに、谷繁監督が惚れている、という噂も聞こえていた。この機会を利用して、邪魔者になった里崎さんを監督は片付けたのではないか。
再び監督の「亀田を止めるな!」の声で我に返る。渡されたのは間違いなく亀田製菓の「まがりせんべい」であった。私が運んでいた大量のお菓子のほとんどが亀田製菓の商品だったことも納得できる気がした。全ては監督によって仕組まれたものだったのだ。彼は自分の映画の成功と愛人との清算を、両方同時に行おうとしているのだ。
だが事はうまく運ばない。
人体実験を成功させたほどの研究者ならば、たとえゾンビ化した脳みそであっても、特定の製菓会社の商品アレルギーくらい、克服する手段を考えつくだろう。かつての哀れな息子のなれの果てである巨大ゾンビの肩に乗った老婆のゾンビが、大きく口を開けて、赤黒い液体を吐き出した。直下にいた城島さんのゾンビが、ぽたぽたと落ちてきたその液体によって焼かれ、溶けていく。それを巨大ゾンビが口に入れた。
「おばあちゃんのぽたぽた焼き……だと!」
そう、亀田製菓の商品名と同じ製造工程で作り上げた自家製の食料を補給することで、ゾンビたちは自らの弱点を克服したのだ。
私たちに残されていたのは、絶望することだけだった。ソフトサラダを、柿の種を、まがりせんべいをいくら嚙み砕いたところで、巨大ゾンビと老婆ゾンビは私たちに向けて歩みを進めてきた。谷繁監督はとうとうお菓子を食べるのを諦めて、ハンディカメラを取り出した。
「俺は、映画監督だった!」
そう叫んで間近でゾンビを撮影しようと走り出した谷繁監督を置いて、私と阿部さんはハイエースを停めたところまで駆け出した。
だが、そこには既に古田さんと中嶋君のゾンビが先回りしていたのだ。彼らにはまだ亀田製菓バリアーが有効だったので、残り少なくなってきたお菓子を少しずつ食べながら、私たちはハイエースに乗り込もうとした。しかし車のキーがない。そういえば車を運転していたのは城島さんだった。彼が車のキーを持っているのだとしたら……。
谷繁監督を蹴散らしてきたらしい、巨大ゾンビの足音も近づいてくる。私たちはハイエースを諦め、ないよりはましだと、お菓子のたくさん詰まったもう一つのボストンバッグを手に車を出た。しかしそれが私たちにとって大切なものだと気付いたのか、古田さんと中嶋君の手により、あっさりバッグは奪われてしまった。そして中身をぶちまけられ、無数のハッピーターンの袋が弾け飛んだ。
それらが自分に害するものという認識はあるのか、古田さんと城島さんのゾンビが大量のハッピーターンの上で跳びはねる。私たちの命綱が粉々になっていく。粉々になったハッピーターンが空中に飛び散っていく。私は覚悟を決めた。こういう時は最後にヒロインと結ばれるのだろうと考え、阿部さんを抱き寄せようとしたが「え、何」と拒否された。
しかし私たちはゾンビに噛まれることはなかった。いつまでもエンドロールの始まらない映画のように中だるみしたクライマックスの中で、私たちはゾンビたちが天に昇っていくのを見た。古田さんが、中嶋君が、溶けた城島さんが、死んでまもない谷繁監督が、監督の足を引っ張って地上に引きずり降ろそうとする里崎さんが、みんな天に召されていく。最後には巨大なゾンビも幼い子どもの姿となり、優しそうな母親と手を繋いで空へと消えていった。
「そうか、粉々に砕けたハッピーターンが……」
ハッピーターンにまぶされている粉「ハッピーパウダー」は別名「魔法の粉」とも呼ばれている。粉の魔力とハッピーターンの本体が混ざりあうことで、粉塵爆発ならぬ粉塵昇天が起こったのだ。ゾンビ化した死人たちにさえ幸せをもたらす粉。絶望のどん底、死の淵にいた私たちに、思いもよらぬ生への希望を与えてくれた、まさにハッピーなターンというわけだった。
「たけのこの里食いてえ」と私は思わずつぶやいた。
「私はきのこ派」阿部さんは冷たかった。
ひと昔前は廃墟でのゾンビ化殺人など珍しいことではなかった。私たちは阿部さんの運転するハイエースで無事に街に戻り(私は免許を持っていなかったので)、別れた。次の現場でも彼女に再会したが、「はじめまして」と知らない人扱いを受けた。やはりきのこ派とたけのこ派は分かり合えない運命だったのだ。その現場ではロッテのお菓子を食べていれば襲われない、という設定のゾンビ映画だった。もちろん映画は全くヒットしなかった。
(了)
映画「カメラを止めるな!」を観ていました。最近は何に触れても「青春小説集」にふさわしいパロディタイトルを考える癖がついています。「カメラを止めるな!」のタイトルでパロディを書くなら何がいいだろう、と考えました。「ガメラを止めるな!」「キメラを作るな!」などと考えているうちに、亀田に行き着きました。亀田製菓を食べ続けないとゾンビに襲われる話が自然と浮かびました。
ちなみに映画は少しずつ観ているので、これを書いている時点で「カメラを止めるな!」は半分ぐらいのところです。なのでひょっとしてここからは実際に「亀田を止めるな!」と被る展開になっている可能性があります。とりあえず各方面にはお詫びしなければなりません。上田慎一郎監督及び映画関係者の皆さま、並びに亀田製菓様、申し訳ありませんでした。万が一映画化する際には、ハッピーパウダーでの昇天シーンは、復活シーンに置き換えるよう書き直します。他社製品の話題もなしにします。
※本編はフィクションです。
ちなみに映画は少しずつ観ているので、これを書いている時点で「カメラを止めるな!」は半分ぐらいのところです。なのでひょっとしてここからは実際に「亀田を止めるな!」と被る展開になっている可能性があります。とりあえず各方面にはお詫びしなければなりません。上田慎一郎監督及び映画関係者の皆さま、並びに亀田製菓様、申し訳ありませんでした。万が一映画化する際には、ハッピーパウダーでの昇天シーンは、復活シーンに置き換えるよう書き直します。他社製品の話題もなしにします。
※本編はフィクションです。