朝起きると、俺の喉に異変があった。
「やべえ…がぜびいだ…がも」
脱水症状が酷いのか、ずしりと体が重かった。
学校…行けるのか、これ。
のそりと布団から体を起こすと、うぐ、とひねり出すような唸り声が出た。
うぐうぐ言いながら部屋から出ると、鳴子さんの部屋からカリカリとハムスターでもいるような音がした。Gペンだか丸ペンだかの音だろうか。一応呼びかけたが、その日は締め切り前だとかで、鳴子さんとミドリさんは部屋から出てこない。
あとは兄だが。
兄貴にばれれば何を言われるか分からない。が、とりあえず起こさなければならない。奴の部屋のドアをだんだんと叩くと、もう起きてると言うので、「俺、もう行くから」とだけ言ってドアは開けずに下へ逃げた。何か兄が叫んでいたが、構うのもおっくうだ。朝飯は適当にやってくれという感じで食パンと目玉焼きとベーコンを置いておいた。
そのままよたよたとチャリをこぎながら学校へいくと、早めに出たにも関わらず、殆どいつもの倍時間がかかったらしく、学校前でヤマに捕まった。
「おい?ムギ、顔真っ赤だよ?風邪?熱あるだろお前」
「…平気。多分。悪化したら保健室行くし、大丈夫」
「なんで家で寝てねーんだよ?もう殆ど授業らしい授業なんかないのに、自主勉ばっかで」
「別に意味なんかねーよ。マスクはしてるしいいだろ」
俺がしつこいヤマを無視して下駄箱へ向かうと、何かにぶつかった。
「スンマセン」
そういいながら俺がぼんやり見上げると、そいつはやたら背の高い朴念仁と確認できた。
信男だ。何の表情も変えずに俺の顔を無言でみている。
ああこいつはまずいと思い、俺も何も言わずに奴を避けて教室へ向かおうとすると、案の定呼び止められた。
「ソルト」
「あんだよ」
「何かあったのか」
「は?」
何かあったのか?
風邪か、とか熱あるんじゃないのか、じゃなくて?
…何で、信男には分かっちゃうのかね。
俺が毒気を抜かれて唖然としていると、信男はがしと俺の腰を掴んでひょいと持ち上げた。
米俵よろしく俺が信男の肩に担がれて黙っていられるわけはない。ないが、俺は目を見開いて口をあけて呆気に取られている間に、保健室の前についていた。
そして信男は俺を保健室のベッドへどさりと置いていくと、さっさと立ち去ろうとした。
「お、おい…」
お礼の一つも言わせてもらえないのかよと思い、とりあえず声をかけ引き止める。
「何だ?何があったか言う気になったか?」
「……別に何も…」
「言わないなら呼び止めるな。寝ろ、そして帰れ」
「……。わかったよ、話すよ」
何も言わせないのはそっちじゃん…。
信男の態度に溜息をつきながら目を閉じて俺は昨日あったことを思い出した。