Neetel Inside ニートノベル
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格好つけて源家を後にしたのび太を見送って、
「あいつ、変わったよな」
 ジャイアンがつぶやくように言った。
「君だって変わったさ」
 肩をすくめながらスネ夫が言って、ジャイアンがけげんそうな顔をする。
 それに、スネ夫は皮肉げに笑って、
「殴らなくなった」
 片方だけ覗いた目を明後日の方に反らした。
 ジャイアンが言葉につまり、沈黙が生まれ、それに耐え切れなかった静が小さく吹き出す。
「昔はひどかったものね。子供だったからってあれはひどいわ」
「お前のものは俺のもの、とか、それなんて窃盗だよ」
 スネ夫がしたジャイアンの声真似にむっつりと押し黙っていたジャイアンもこらえきれなくなってついに吹き出してしまう。
「悪かったよ。俺だって反省してるんだからまぜっかえすなよ」
 笑いながらジャイアン。
 しかし、
「反省なんて、君には似合わないよ。キャラじゃないにも程がある」
「たけしさんには我が道を行って盛大に転んでもらわなきゃね」
 スネ夫が言ってそれに賛同する静。対してジャイアンはふてくされてしまう。
「それはひどいぜ静ちゃん。俺がいつも失敗してるみたいじゃないか」
「あら? 違ったかしら?」
 彼女がおどけてみせて、三人は笑った。
 その笑い声は次第に乾いていき、誰からともなく溜め息に変わる。
「キャラじゃないことしやがって」
「いつもはすぐに泣き付いてきやがったくせに」
「頼られないってのはつまらないものね」
 口々に言って口だけで笑う。しばし、重い沈黙があって、
「無事に終わったらきっちり躾てあげなきゃね」
 静が笑った。
「だな」
「まったく、面倒な奴だ」
 言って二人は立ち上がる。
「それじゃあ、僕らもいくよ。お邪魔しました」
「だな。静ちゃんもがんばって」
 言って、玄関に向かう二人に、
「裏から出てね。あと、危ないことはしないでね」
 声をかけた。さらに、足を止めた二人に続ける。
「二人が今ののび太さんに接触しようとしてもきっと妨害されるでしょうから。
 あくまでも罠とわかっていてこちらを仕留めにくるであろうあちらの傲慢さに漬け込むんだから」
 チラリとスネ夫がジャイアンの方を見るが、彼は何かを考えているのかなかなか返事をしない。
 結局彼は小さく溜め息を吐いて、
「けど、あいつ、死なないかな」
「……」
 振り返ることもなく、心底悔しそうな声で尋ねる。
 静はその大きな背中に、はっきりと、笑いながら言った。
「心の友なんでしょ? ならちゃんと信じてあげなさいよ」
 しばし固まっていた二人だったが、まずスネ夫が笑って、そして、
「すまねぇ、そらそうだわな」
 続いてジャイアンが言った。静はその言葉が本当は自分に向けられたものだったことを悟られぬよう、小さくうつむいて、靴をもって玄関に戻ってきた二人を見送った。

       

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