Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 結局それから、大したことは話さないままドラえもんは寝てしまった。
 すーすーと寝息を立てる彼女を見ていると、不意にいたずら心がわいてきた。
 今まで彼女の道具に頼るのは我慢してきたけど今日くらいは良いだろう。
 明日に行って一足早く合否を確認して、それに対する皆のリアクションをジョナサンみたく言い当ててからかってやる。
 僕は彼女がぐっすりと眠っているのを確かめると、机の引き出しを開き、そこに広がった暗い闇に向かって椅子を踏み台に身を踊らせた。
 トス、という柔らかい感触でもってタイムマシンが僕の体を受け止めてくれた。
 そういえばこれに乗るのも久しぶりだ。昔は過去やら未来やらにこれで行ったり来たりしていたのに。なんとなく見上げれば、黒い画用紙を四角く切り取ったように微かに明るく、部屋の天井が見えた。
 タイムマシンの前方のタッチパネルを操作する。
 それにしてもいくら未来の道具とはいえ時間移動ができるとは思えないほど簡素なマシンだ。
 大雑把に言えば、アラジンに出てくる魔法の絨毯よろしく空中に浮かんだマットレスにタッチパネルがついただけなのだ。
 しかし、これだけの装置で時間旅行が可能なのにはわけがあるらしい。 なんでも未来のある時に誰かが、本来、階層的に平行別世界であるはず過去、現在、未来に干渉し、近付け三次元的に疑似具現化するという奇妙な道具の開発に、たまたま成功して、タイムマシンは単にそれによって発生した世界間を繋ぐ時空間をただ移動しているにすぎないらしいのだ。
 まぁこれはドラえもんの受け売りで、実のところ僕はよくわかっていないのだが、戯れに
「そのタイムキーパーとやらを壊したらどうなるの?」
 と尋ねると、彼女は「複製がきかなくて貴重だからってことで歴代のタイムパトロール所所長が受け継いで持ち歩いてるからまず無理だけどね」と前置きして、
「全ての時間旅行が無かったことになる」
 そう答えた。
 つまりは自分のいるべき時間に強制的に送り帰されてしまうらしい。
「他の時間のタイムキーパーを借りちゃダメなの?」
 続けてそう尋ねると、
「他時空間のタイムキーパーもこわれちゃうんだってさ。誰も試したことはないけど、繋がってるだって」
 そう言っていた。
 全く、誰が作ったのかはわからないがすさまじい道具だ。
 そんなことを考えながら、とりあえず明日のお昼、静ちゃんと約束して合格発表を見に行くくらいの時間に目的時を設定する。
ブゥン、と微かな駆動音がすると共に、細かな振動が始まり、真っ暗だった周囲の空間が淡い濃紺の時計のビジョンが市松模様よろしくいくつもならんだお馴染の時空間に変わる。
 人間の脳には四次元移動を認識することができないから擬似的にそう感じるだけらしいが、その時空間をすべるように滑らかにタイムマシンが動き出す。
 しばしの移動を経て、目の前が不意に明るくなったかと思えば、僕は空の上にいた。ひさしぶりだったから場所設定をいじるのを忘れていたのだ。慌てて裏山まで避難してタイムマシンを着陸させる。
――ふぅ。
 こんなものを見られるわけにはいかない。少し早めの時間に設定しておいたおかげで人が少なくてよかった。
 山を降りつつ寝ていたドラえもんのスペアポケットからくすねてきた石ころ帽子を被る。
 これで僕は存在しないただの視点に変化する。

       

表紙
Tweet

Neetsha