樫小井高校。
校門からのびた道をゆるやかに登った先、初代校長だかなんだかの銅像の前にベニヤ板が置かれ、そこにいくつも数字がならんだ紙が貼り出されていた。その前に集まった学生達が数字を確かめては、各々に喜んだり悲しんだりしている。
ざっと見回したが僕と静ちゃんはまだいなかった。
視界の隅に、なにやら大袈裟にガッツポーズを取り、ブンブンと両手を振っては「よし!」と吠えている出来杉くんが見えた。
落ちるはずがないとは思っていたが受かってしまったか。それにしても落ちた人に気を遣うこともせずに吠えまくるとはさすがは出来杉くん。キング・オブ・KYだ。そんなことだから映画版には出れないのだよ。
ため息を吐きながら掲示板に向かう。
無事に僕の番号と静ちゃんの番号を見つける。
「よぉぉおおしッ!!」
一際大きな出来杉くんの雄叫びをききながら、僕はちいさく拳を握った。
このことを早く伝えたい。
そう思ったときに頭に浮かんだのは、両親ではなくドラえもんの笑顔だった。
***
僕は、もうここに来て、これを見たんだろうか。
そんなことを考えながら校門までニヤニヤしながら歩いていると、ちょうど校門から入ってくる僕らが見えて、思わず足を止めた。
不意に自分を見る、というのは実に奇妙な感覚で、鏡を見ていてその像が急に動き出したらたぶん似たような気持ちになると思う。もちろんそんな経験はないけど。
僕らは楽しそうに話し合いながら歩いていく。
「静ちゃんはいいよね、都内で一番レベルが高いここでも楽勝なんだから」
「そんなことないわよ。それにのび太さんだって偏差値的には余裕じゃない」
「何が起きるかわからないからね。親戚の知り合いなんてもう五浪もしてるみたいだし」
「大学は別でしょう。きっと大丈夫よ」
自分のことなのに何だか盗み聞きをしているような気分になってきて僕は歩みを再開しようとした。
瞬間に、ぴたりと二人の会話が止む。
思わず振り返ると、雄叫びを続ける出来杉くんに、二人同時に気付いたようだった。
苦笑いを浮かべながら見ていると、すぐに僕らに気付いた彼は喜びの舞を止めて僕らに近づき、そして言った。
「二人も合格だよ。三年間よろしくね」
キング・オブ・KYめ。
そんなことだから(ry
明らかな愛想笑いを浮かべる静ちゃんの横で僕が溜め息を吐いていた。
「よかったわぁ。出来杉さん、勉強だけは出来るから心配してなかったけど」
うぅ、怖いよ、静ちゃん。
僕はその場をこの時間の僕に任せ、そそくさと後にした。