Neetel Inside ニートノベル
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「なっ……」
 予想だにしていなかったであろう僕の行動の連続に相手が対応を決めかねているのを感じた。銃声の数から予想はしていたが、ノビノビロープの罠で大方のタイムパトロールは行動不能に追い込んでいたようで、いしころぼうしを被った支援部隊とやらは数自体は少なかったらしい。そこのところは正直運任せ立ったのだけど、まだ神様まで敵に回ったわけではなさそうだ。
 僕は素早く身をかがめながら油断なく両手を動かし、両サイドにいた見えない誰かをすばやく打ち抜く。
 これで8+5で13叩いたことになる。残りはいくつか、それがわからないのが苦しかった。
 と、
「な、何をしている!」
 明らかに焦っている声で、僕を逮捕するだとか確保するだとか言っていた人が吠える。いい加減にうるさいから黙ってもらおうか、そう思って声のしたほうに向かって指先を向けようとした瞬間、
「早くそいつを捕まえろ! 細胞さえ壊れてなければ再生できるんだ! 実弾の発砲もかまわん」
 彼が早口に叫んだ。
 その発言に驚いて完全に行動も思考も一瞬だけ停止してしまう。
 しかし、その一瞬が、その一瞬の判断の遅れが致命的だった。くわえて、よりによって、すでに拘束済みで撃つ必要のない相手に銃口を向けるという感情に任せた明らかに判断ミスの無防備極まりない状況だ。
 ハッとしたときには、威嚇用であろう、まだ残っていたらしい敵の銃から伸びてきたものとおぼしき照準補正用の赤いレーザー光が三つ、僕の胸にピタリと固定されていた。
 もちろん、動けるわけがない。
 動けば即、僕の胸は血を噴き出すだろう。
 そして僕の細胞から作られたクローンが僕の変わりに平穏な生活を送ることになるのだ。
 くそ。ここまでか。
 そんな思いが胸に広がって、思わず頭を垂れた瞬間、
「そんな話は聞いてないな、小隊長殿」
 その瞬間に一番聞きたかった声が空き地の入り口の方から聞こえ、
――パンパンパン!
 切れ目なく響いた三発分の空気砲の音がそれに続いて、次々に僕の胸の上にあった赤い光が何処かへとそれていった。撃たれた衝撃でいしころぼうしが破れたらしく、僕を囲むように散開した三人の青い制服姿の三人が姿を現しながら吹っ飛んで倒れる。
「貴様ッ! 裏切る気か!?」
「裏切るも何も、僕はのび太くんを安全に確保し、罰を最低限に減らすために努力するってあなたたちが言うから付いて来たんですけどね」
 呆然とする僕の前で、言い争う声が聞こえ、
「貴方には、任せられません」
――パン。
 銃声が一つ鳴って、そして静かになった。
 ノビノビロープで歪に縛り上げられた惨めな格好で気絶した制服男が一人、視認可能になってぴくぴくと痙攣していた。
 僕はそれを気にもせず、
「ドラえ……も、ん?」
 震える唇で切れ切れに尋ねる。と、
――ハァ。
 ため息を吐きながらいしころぼうしもどきを破るドラえもんが現れ、
「何をしてるんだよ君は」
 言いながら、悲しそうに笑った。
 さよならをしたのはつい数時間前のことなのにずいぶん久しぶりのようだ。思わぬ再会に、思わず泣いてしまいそうになりながら、僕は必死で言葉を捜し、とりあえず、
「ロックマンみたいだよ」
 空気砲を右手に装着し、防弾用の青い簡易鎧を着た彼女に言った。
「こんな時に何言ってるんだよ」
 彼女は小さく吹き出して、あまりにもいつもどおりに僕の頭を軽く小突いた。その瞬間に涙が溢れてどうしようもなくて、僕は恥も外聞もなく、子供のようにただひたすら泣いた。

       

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