Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 外は雪が強くなっていた。
 必死の抵抗むなしく彼女の背に乗せられ、引きずられるようにしてドアをくぐらせられて、僕は再び空き地にいた。ドラえもんはゆっくりと僕を運び、土管に背をあずけるようにして座らせる。
 さっきまでいたタイムパトロールたちはみんな撤退したのか、そこには倒れていた人も人の気配もなかった。
 そして、僕らの間に会話もなかった。
 なにやら通信機のようなものを取り出したドラえもんが
「はい、無事に確保しました。約束は、守ってもらえますね?」
 などとしゃべっているだけだ。
「ではランデブーポイントで」そう言ってピッと終話ボタンを押し、通信機をポケットに直すと彼女も完全に押し黙ってしまう。沈黙のなか、音もなく雪だけが降り下りて行き、時間が確かに経過していることを僕に教えてくれた。
 どれだけ時間が過ぎたろうか。
 僕も彼女も言葉を発することなく、ただ待っていた。
 僕は彼女が僕を再びここに連れてきた理由を、彼女はきっと誰かを。
 僕は彼女のことを諦めきれてなんかいなかったけど、もはやかける言葉を見つけられなかった。
 彼女は自分が殺されるのを知っていて、そして僕の気持ちも知った上で、それでもこうやって僕を突き出すことを選んだのだ。どれだけ言葉を並べても、彼女の考えは変えられないだろう。彼女が意地っ張りなのはよく知っているのだ。
 だから僕は、考えるのをやめて、ただ待つことにした。
 彼女を守ることが出来なかったことも、そこまでして彼女が何を守ろうとしたのかも、彼女がいなくなってどうなるかも、考えたくない。考えられなかった。
 すると不意に、そして唐突に、何もなかった空間にドアが現れた。
――カチャリ。
 ノブが回り、ゆっくりとこちらに向かって開いたドアの向こうから現れたのは、あの時彼女を殺すように命じた男、タイムパトロール所長だった。
「待たせたね」
後ろ手にドアをしめながら、尊大な口調で彼が言う。
閉じられた瞬間にドアは一瞬にして溶けるように消えた。つまりは彼の所有するドアではなく、あちら側にそれを片付けたものがいるのだろう。
「いえ」
神妙な口調でドラえもんが答え、続けて何かを言おうとしたが、その前に、僕は動いていた。
許せない。許せるわけがない。
彼の顔を見た瞬間にこみあげた怒りにまかせ、限界を超えた力でもって全身を軋ませながら腰をあげ、吠えながら前進する。
無表情にそれを見下ろす所長とは対照的に、
「のび太くんっ!!」
ドラえもんが鋭く僕を呼び、瞬間に再び僕の体から力が抜かれた。
勢いのまま膝から崩れ落ちて、全身を強く打ちながらごろごろと転がる。受け身なんか取れるわけもなくて、全身に生まれた痛みを押さえることもうめくこともでききないまま、僕は倒れ込んだ。

       

表紙
Tweet

Neetsha