Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

大声に反応したか母親がどたらどたらと階段を上ってくる音がする。
人からなにかを貸してもらうのがとてつもなく許せない母にこんなものを見られたらわが身がもたん。
大急いで某棒をドアつきの棚に押し込むと、漫画を棚からばら撒きあたかも漫画を読み漁りながら雑談にふけっている様を作り出した。
右京も体勢をすぐさま取り直し、じゅうたんの上に寝そべり某死のノートを開いてページをめくり続ける。
俺も某スタンドバイミーで奇妙な冒険の4部の中盤の巻を4,5冊とり、寝そべって漫画を読んでいる様を演じる。

右京が寝返りをうった瞬間、ばああああぁぁぁああんとド派手な音でドアを蹴破る音がした。

「やあかあさんまたどあをけやぶってなんのさわぎd」右京は破片が眼に入ってムスカ状態だから放っておくことにする。
「いくら自分ちだからってえドガァゴガァ騒いでんじゃあねえ、…わよ………」
「あなたいまうきょうがたおれてるのにきづいてごびつけたしたでしょうあいつもうのびてるからまともにはなしませんk」
「じゃかあしいわっ!…って右京君大丈夫?眼ェ見せてごらんっ?」手をわきわきさせながら右京に近づいていく。右京のニットに興味津々、心配を装って触ろうとしているのがバレバレだ。

母はから右京のニットをいつか剥いでやる、中をなめずり回してやるう、と寝言で吐いていたので俺は止めに入る。


「ほらぁあ、怖くない恐クナイコワクナイヨイタクナイタクナイ☆「おいっ、やりすぎd」viiたたっ壊すゾ?「あいとぅいまてぇん☆」ほらほらほらあの神秘のベールにつつまれた魅惑の楽園ヘヴンがそこにっ!見逃すものは拒まないが咎めるものはけして赦さないッ!」

右京は殺気を感じ取りじたばたもがまぎと逃げようとするがなにしろ眼を潰されているため壁沿いに這うのが精一杯である。
……まずいっ、このままでは母の毒牙にかけられ哀れ見事な“ナントカ線を駆け巡る我らの移動帝国”の名誉臣民になってしまうっ、そのまま挟み込まれる四つのLにも惑わされずに垂直に堕ちればそこは…ってそんな場合じゃないっ。

「〝助ける"って心の中で決めたときにはすでに行動は終了しているッ!ごめん母ァッ」



後ろから股間を蹴り上げた。



母が悶絶している。泡々を吹き出し白目をひん剥きふごうご唸っている。可哀相に失ったはずの場所が虚しく疼いているようだ。頭の中はなくした楽園の夢で溢れているはずだろう。
ニット帽(+胴体)と並んでいて、さながら捌かれる前の魚のようで。
そんな魚を一匹背負って隣の寝室に押し込むと声が聞こえてきた。

「おぅい、そろそろ僕の眼の心配をしてくれてもいいんじゃあないか?展開的に」
またせたな、と某蛇傭兵ばりに呟きながら部屋に戻ることにした。






そのとき階下から「ぅいひひひいい、帰ったよぉほーん★」と聞こえてきた。父である。酔っているな。

「右京、ちょっと待ってろ。親父が帰ってきた」
「あ、そう。そいじゃあ挨拶でもしていきますか」
「やめとけ」「なんでさ」「身のためだ」「なおさらさ」


右京は俺の父を見たことがない。ウチのような面白家族に眼がない右京にとって、ウチの家族の顔はviiを差し置いても一目のぞきたいものらしい。
説得するのをあきらめた俺は仕方なく右京を階下へと連れて行った。


「おおう、友達さんが来てらしたのかぃ。どうも始めましてだあねええ。…にゃははは、そんな緊張するこたあないよっ」



だあははははははは、と高笑いする父はまたテーブルに座って呑んだくれている。
細く整った顔立ちに酒の紅味が射し、ネクタイをだらしなく緩めYシャツを胸元まではだけているその様はある意味画として成り立っていた。



「あんちゃん、名前何てぇの?…おっほほお右京ってえか。刑事ドラマかなんかに出そうな名前だにぃえ……。え、お父さんはあの“相方”の?…だああっはははははははっ、こりゃあ傑作だぃ」



「あぁっはっはっはっはっはへへへへへへえぇ、ところでそれって帽子?…あ、地毛?こりゃまた失礼ッしましたあっ」













「…ねぇ」

















「ちょっと、聞いてる?」





「…さっきの部屋では我慢したけどさあ」


















「君のお父さん、どう見ても女だよね?」

       

表紙
Tweet

Neetsha