Neetel Inside 文芸新都
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「ぬう」
 ドーガがよろめく。俺とローレンの一撃だ。受け切れるわけがない。
 雨が降ってきた。曇り空だったのだ。だが、この雨で足場が悪くなる。長居はしていられない。
「ローレン、早々に決めるぞッ」
「わかってるッ」
 駆ける。金属音。くそ、ドーガめ、よく持ち応える。
 背後で喚声。ついに陣形を整えた敵が突っ込んできた。背後の敵は大軍だ。飲み込まれる、踏み潰される。
「ローレン、クラインは何してるッ」
 駆ける。矢が飛んできた。それを手掴みし、射返した。やろうと思えばこれぐらい出来る。集中力は研ぎ澄まされている。
「崩してくれているはずだッ」
 だが、何かが足りない。もう一押し、あと五百の兵が居れば。
「ドーガの首を取って、戦意を落とすしかない。急ぐぞッ」
「僕も同じ考えだッ」
「反逆者とガキ、おあつらえの相手だッ」
 黒馬が駆けてくる。あの気性、デンコウ以上に攻撃的だ。さすがにドーガの馬だ。
 戟。だが俺じゃない。ローレンだ。あいつは体躯に恵まれていない。まずい。
「ぐぅ・・・・・・ッ」
 受け止めた。だが、押されている。かろうじて姿勢を保っているが、崩される。
「ドーガッ」
 剣を振り上げる。ローレンを助けるのだ。
「反逆者は下がっていろッ」
 戟の柄尻が飛んできた。胸を押される。手綱を掴み、踏みとどまった。
「チィッ、ローレン、距離を空けろッ」
 近距離は俺がやる。ローレンは矢で牽制させた方が良い。逆に首を取られる。
「僕は反乱軍最強なんだッ」
 何を意地になっている。ドーガは相性が悪すぎる。下がれ。
「小僧が、言う事を聞けッ」
 馬蹄。地鳴りだ。背後から大軍が押し寄せてきている。時間が無い。土煙が見えている。
「くそっ。ギリのおかげで右翼がこちらと合流したが、いかんせん押しが弱い」
 いや、相手が強いという事だ。ドーガめ、よく訓練させている。この乱戦でも落ち着いているのだ。
「クラインの軍に騎馬があれば」
 騎馬は全て奇襲に出した。クラインが率いているのは歩兵と弓兵だった。一方のドーガは騎馬隊だ。騎馬と歩兵では、圧倒的に騎馬が有利なのだ。簡単に蹴散らされてしまう。弓兵は乱戦では役に立たない。
「全ては俺の不注意だ」
 そう、ドーガが背後に回っている事に気付いていれば、もっと違った結果になっていたはずだ。
 雨が鎧を打っている。深夜と相まって、さらに視界は悪くなっていた。
「ガキが、この俺様を討とうなど十年はえぇッ」
 ドーガが押している。ローレンでは無理だ。体躯に差がありすぎるのだ。ドーガは俺よりもデカい。力もあるはずだ。ローレンは巨人と戦っているようなものだ。線の細い、技術で攻めるタイプのローレンは、ドーガとは相性が悪すぎる。
「ドーガ、貴様ッ」
 ローレンを助けるつもりで、割って入った。剣を振り上げる。
「ラムサスかッ」
 剣と戟が交わった。鍔迫り合い。
「お前の父は確かに偉大だった。だが、お前はどうだ? 何も苦労せず、何も功績をあげず、こぼれ落ちて来る熟柿をその手に取るように、軍を譲り受けただけだ。貴様のようなお坊ちゃんには、今の立場がお似合いなんだよッ」
 つ、強い。その昔、手を合わせたときは、これ程強くはなかった。いつの間に、ここまで腕を上げた。
「ラムサスッ」
 ローレン、ドーガの背後だ。槍。稲妻のような速さ。突ける。
「ガキは引っ込んでいろッ」
 瞬間、俺の剣を跳ね上げ、戟の柄を払った。ローレンの槍が虚空へと吹き飛ぶ。まずい。
「ローレンッ」
 戟。間に合わない。
「僕をなめるなッ」
 白馬が下がった。あの馬だ。俺の剣を避けたように、また下がった。あの馬、勘が良すぎる。
 その瞬間だった。
「ら、ら、ラムサス様ぁーッ」
 左から土煙を舞い上げ、騎馬隊が突っ込んでくる。あの騎馬隊。
「俺の、俺の鍛えた騎馬隊だ」
 いや、それよりもさっきの声。
「あ、あなた様のき、騎馬隊をお届けにっ」
 あのオドオドしている男は。
「ランドかッ」

       

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