Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 何故、ランドが。あいつは戦にも出た事がない。武芸、いや、武器の扱い方だって知らないはずだ。それが何故。
 だが、崩せる。あの騎馬隊が側面から突っ込めば、ドーガ軍を潰走させる事ができる。
「ドーガ、覚悟しろッ」
 デンコウの腹を蹴る。好機だ。これでドーガの首を取れば、一気にまくし立てる事ができる。ランドの救援、勝利の架け橋。
「ちぃ、裏切り者が出やがったかっ」
 戟と剣。交わった。鍔迫り合い。だが、ドーガの腰が入っていない。明らかに迷っている。戦い続けるか、撤退するか。揺れている。気の迷いは、命を奪う。
「ローレン、槍を拾えッ」
 討ち取れる。ローレンが槍を拾い上げた。白馬が駆ける。やれ、貫け。
 敵兵。ローレンを挟んだ。だが、一瞬で敵兵二人は馬から転げ落ちた。ローレンの稲妻の突き。そんなものでローレンを止められるものか。
「こ、この俺がっ」
 ドーガが呻く。力は強い。だが、終わりだ。
「首は貰ったぞ、ドーガッ」
「ドーガ将軍ッ」
 その瞬間だった。目の前を矢が掠めた。身体が反応していた。ギリギリで避けた。だがそのせいで、姿勢が崩れる。ドーガに押し切られる。
「親の七光りが、反逆者がッ」
 戟で吹き飛ばされた。まずい、ローレン。
「串刺しだ、髭男ッ」
「バカがッ」
 閃光。槍が真っ二つ。戟で断ち斬られた。
「ローレンッ」
「ドーガ将軍の首は取らせんッ」
 目の前。大男だ。俺、いやドーガ以上にデカい。斧。振り上げている。手綱を目一杯引いた。
「デンコウ、立てぇッ」
 棹立ち。斧が振り下ろされた。空振り。腰に手を回した。弓矢。即座に引き絞り、矢を放つ。左目に突き刺さった。
「ぐぬぁっ」
「邪魔をするなッ」
 剣を薙ぐ。首を飛ばした。ローレン、ローレンは無事か。
 距離を取って、弓矢で応戦している。待っていろ、すぐに加勢してやる。
「ら、ら、ラムサス様ぁっ」
 ランド。来た。ついに騎馬隊がドーガ軍に突っ込んだ。だが、ランドは戦の経験が無い。馬もかろうじて乗れる程度だ。その証拠に、馬の首にしがみついている。
「ローレン、騎馬が突っ込んだッ。ドーガには、もう構うなッ」
 背後を見る。敵の姿がはっきり視認できた。大混戦になる。クラインと合流するべきだ。ドーガの首は欲しいが、時間が無い。奴も本隊と合流するだろう。
「ラムサス軍、固まれッ。クライン軍と合流するッ」
 即座に集まる。
「駆け抜けろッ、目の前の敵軍は殺せッ」
 騎馬が駆ける。同時にランドの方へ向かった。ローレンの方に目を向ける。指揮を執っているようだ。もうドーガは居ない。
「ドーガ軍、本隊と合流しろッ」
 イガイガした声。ドーガだ。限界だと判断したのだろう。これ以上踏みとどまれば、クラインとの挟み撃ちで戦死するしかない。本隊が来る前に壊滅する事になる。
「ら、ラムサス様」
「ランド、よくやった。詳しい話は関所で聞く」
 目の前、敵だ。
「うわぁっ」
 ランドが頭を伏せた。剣を薙ぎ、敵の首を斬り飛ばす。
「安心しろ、俺が守ってやる。ついてこい」
 デンコウの速度を緩める。ランドの速度に合わせるのだ。敵が本隊へと向けて駆けていく。それを弓矢で射落とし、剣で斬り殺す。周りを見渡す。血しぶきが嵐のように舞っていた。ランドの連れてきた騎馬隊のおかげで、敵は大きく混乱している。
 クライン軍が見えた。合流だ。
 その瞬間だった。
「ラムサス様ぁっ」
 ランドが叫んだ。顔面蒼白だ。何があった。
「うぐっ」
 血を吐いた。まさか。背後に目をやる。ドーガが、ドーガが弓矢を構えていた。
「裏切り者には死だ」
 矢。さらにランドに突き刺さる。ランドが馬から転げ落ちた。
 俺の中で、何かが切れた。

       

表紙
Tweet

Neetsha