Neetel Inside 文芸新都
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「神王、お呼びでしょうか」
 翌朝、俺は神王から呼び出された。俺が呼び出される理由は、戦以外に無い。
「ラムサスか。昨日、あれだけ叩き潰したと言うのに、また反乱軍が現れたそうだ」
 神王は、白い猫を膝の上に乗せ、その身体を撫でながら言った。神王は肥沃な身体で、滅多に王座から動かない。
「ラムサス、本当に皆殺しにしたんだろうな。ん?」
 分からない、と言ったはずだ。俺はそこまで管理していない。
「何故、何も言わない」
「命令は出しました。私の兵は命令には忠実です。皆殺しにしているはずです」
「『私の兵』ではないだろう。『カルサスの兵』だ。お前は、カルサスの兵を受け取ったに過ぎん」
 確かにその通りだ。父が病死し、その兵をそのまま自分の管轄下に置くことになった。
鍛錬も、軍律も、個々の力も、全てが完成していた。俺は、父がやっていた事を真似しているに過ぎなかった。
「ラムサス、お前の父は偉大だったよ。カルサスが生きていれば、反乱軍はもっと大人しくしていたかもしれんな」
 何も言えない。全ては仮の話だ。
「まぁ良かろう。反乱軍を叩き潰して来い」
 猫が膝の上から飛び降りた。
「ワシのキュアルちゃんが。おい、捕まえろ」
 侍女に指示を出し、面倒そうに顔をこちらに向けてきた。
「まだ居たのか。早く行け」
「・・・・・・はっ」

「ランド、戦だ。武具を出してくれ」
「は、はい」
 厩に行く。馬の調子を調べるのだ。
「今日は、どこに行かれるのですか」
「西の方だ。また反乱軍が現れたらしいからな」
 鎧を着込む。鎖帷子の方が動きやすいのだが、指揮官は鎧にしろ、と神王が命令してきた。
わずらわしいが、仕方が無いことだった。
「デンコウの調子は良さそうだな」
 愛馬だった。16歳の頃から、乗り続けている。大きな馬で、足も速い。
何より、気性が攻撃的だった。俺と相性がバツグンに良いのだ。
「ぶ、武器は、剣ですか、や、槍ですか」
 何でも使える。だが、剣が好みだった。槍は強い。剣で槍をねじ伏せるのが好きなのだ。
「剣だ。あと短弓と矢を三十本だ」
 これで遠近、共にこなせる。
「ラムサス様、て、敵軍は二千五百との事です」
 また少数だ。今日の神王は、軍はいくら出せと数の指定はして来なかった。昨日は六万だ。
「こちらも二千五百で出るぞ」
「そんな」
「神王は数の指定をして来なかった。私の裁量に任せるということだ。残りの軍で、城の防備だ」
 父カルサス軍・・・・・・いや、元カルサス軍は十万という大軍だった。これは、エクセラの軍力の半数に値する。
軍の実権を、父は完全に掌握していた。そして俺は、それを引き継いだのだ。
「し、神王が何とおっしゃるか」
「勝てばいい」
 そして皆殺しにすればいい。それで神王は満足する。
「お、お願いです。六万、ろ、六万連れて」
「くどいぞ、ランド」
 何をそんなに慌てているのだ。俺の指揮がそんなに心許ないのか。そう考えると、苛立ちが湧いた。
「ラムサス様、反乱軍は西の関所を制圧しようとしています」
 諜報員だ。たかが二千五百で、関所を落とせるものか。関所の上から矢を放つだけで、壊滅する可能性だってある。
「この二千五百は手強いらしく、今までの反乱軍とは違うようです」
「違う? どういう意味だ」
「分かりません。ただ、関所が苦戦しているのは間違いありません」
 二千五百で関所を落とすのか。従来の戦では、その十倍は無いと落とす事など出来はしない。
それでも昼夜兼行で攻め続けて、五日はかかる。
「分かった。だが昼夜兼行で駆ける必要は無い。今回は二千五百だ。移動も軽いだろう」
「ら、ラムサス様」
「ランド、そんなに心配なら付いて来い。俺の戦を見せてやる」
「ち、違うんです」
 何が違うと言うのだ。相手はたかが反乱軍だ。
父の・・・・・・いや、俺の軍が負けるわけが無い。
「ならばお前は留守番だ」
「ら、ラムサ」
「くどいッ。もう喋るなッ」
 怒鳴った。ランドは俯き、身体を震わせている。少し悪い気がしたが、すぐに振り払った。
「ラムサス軍二千五百、出るぞッ。反乱軍を鎮圧するッ」
 関所が苦戦している。手強い。これらのキーワードが、頭の中で反芻されていく。
 やっと、やっと、自分の力を試す時が来た。功績もあがらないし、大した戦でもないと誰もが言うだろう。
だが、これは兵力で押す戦では無い。相手が援軍を手配してきたら? 途中で伏兵が居たら?
様々な疑問が湧いて出てくる。大兵力を率いていた時には無かった疑問だ。
「神王に、俺の力を見せる時が来た」
 緊張と躍動感が、身体の中で渦巻いていた。

       

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