Neetel Inside 文芸新都
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 土煙、金属音、喚声。大混乱だ。
「怯むな、このまま割って入るッ。武器を構えろッ」
 ローレンを救う。武芸は得意ではない。だがそれでも、人並には戦えるつもりだ。槍を構えた。かつては、この槍でローレンを鍛えたのだ。十年程前の話だ。
 戦線。割り込んだ。敵が驚いている。
「一気に駆け抜けろッ。ローレンの陣までだッ」
 槍を構える。側面から敵が群がってきた。さすがに伏兵を仕掛けているだけあって、対応が早い。
「ハンス殿、何をしておられますッ」
 私の旗を見たのか、クラインが駆けてきた。この大混戦の中で、よく来れた。敵兵をさばいている。
「ローレンを救うッ」
 それだけ言って、馬に鞭を入れた。ローレンはまだ若い。能力もある。こんな所で死んで良い男ではない。
「くッ」
 槍が目の前を掠めた。突いてきた敵を馬から落とす。冷汗が全身から噴出している。長らく、戦闘から遠ざかっていた。ローレンやクラインが代わりを担っていたからだ。動悸が激しい。この重圧、久しぶりだ。
「ローレン、ローレンはどこだッ」
 ローレン軍と合流した。鋒矢の陣を解き、一つの円になった。中央に私を配し、周りを兵が固める。
 クライン軍以上の混戦だ。しかも、統率が全く取れていない。敵味方が入り乱れており、完全に陣形を崩されていた。対する敵軍は、しっかりと統制されている。
「エクセラめ、予想外の戦の上手さだな」
 これでは、ローレンを探すよりも軍をまとめた方が良い。鎮静を優先させるべきだ。ローレンの安否が気に掛かるが、全体の情勢を考えて行動した方が良い。
「私が指揮を執る、旗を振らせろ」
 混乱しているため、しばらくはまともに機能しないだろう。だが、何もやらないよりはマシだ。周囲の兵たちが、旗に気付いて集まってきた。
「陣を組め、一つに固まれッ」
 少数だが、ローレン軍が一つの円になった。迫り来る敵兵をさばきつつ、前進する。敵は大軍だ。次々と群がってきていた。内側に配されている兵たちが矢を放ち、威嚇する。だが、焼け石に水だ。長居は出来ない。
「ローレン、ローレンッ」
 白馬を探す。ローレンは白馬に乗っているのだ。気が強く、勘の良い馬だ。足も速い。
 尚も前進する。すでに敵中深い。すぐそこに、敵の本隊が居るはずだ。後退するにも難しくなってくる。諦めるしかないのか。
 途端、前方から声が聞こえてきた。若い声だ。耳を向ける。
「固まれッ、慌てるなッ」
 この声。ローレンだ。
「ローレンッ」
 駆けた。無事だったか。生きていたか。
 視認した。指揮を執っている。数百という兵をまとめ、敵の本隊と勇猛果敢に戦っている。
 敵が弓矢を構えていた。ローレンを狙っている。
「このッ」
 矢を放った。敵の腕に突き刺さった。咆哮をあげている。一矢で仕留める事が出来なかった。ラムサスなら、ローレンなら一矢だ。さらに放つ。馬から落とした。
「ハンスさんッ」
 気付いた。
「ローレン、軍を下げろッ。生き残りは私がまとめた、あとはお前だけだッ」
「ですがッ」
 瞬間、ローレンが手綱を引いた。白馬が棹立ちになる。その下を男がかいくぐった。体格はローレンと同じくらいだ。だが、まとっている雰囲気は。
「ら、ラムサス。いや、違う。だが、あの動きは」
 間違いなくラムサスだ。馬に乗っていない。徒歩だ。武器も剣。かつて、ローレンとラムサスは一騎討ちを演じた。あの時の剣に精通する動きだ。まさか、ラムサスの弟子か。
「ハンスさん、この男が総大将ですッ」
 なんだと。ローレンが槍で剣をさばいている。
「馬から落としましたが、徒歩でッ」
「我が名はラナク。軍神ラムサスの一番弟子だ。おまえ、反乱軍の君主だな」
 その男と、目が合った。冷ややかな目だ。そう思った。

       

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