Neetel Inside 文芸新都
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「ラムサス、お前を軍団長に任命する」
 ハンスが俺にこう言ってきた。
 軍団長、それは軍事の最高権力者だ。ハンスは、アイオン、ローレン、父の代からの将軍たちではなく、俺を軍団長に指名してきた。
「どうした、不満か?」
「いや」
「アイオンは軍事よりも、政務に当てた方が良いだろうと思ってな。まぁ、あいつは何でもこなしてしまうから、軍事・政務を行ったり来たりするだろうが」
 ハンスが苦笑する。
「もちろん、お前より優秀な人間はいくらでも居る。バリー将軍、ラルフ将軍らがそうだ。だが、総合的に見ると、お前が一番なんだ」
 人望、という事だろう。
「ここからが正念場だろう。私はもう時間がない。そう長くは生きられんだろう。十年後には死んでいるかもしれん」
「バカな事を」
「冗談だ。とにかく、軍事はお前に任せる」
「良いだろう」
「で、お前の目から見てどうだ。エクセラは。攻めてくると思うか」
 それはないだろう。ルースが王となってから、そんなに時が経っていない。軍はまだ乱れているはずだ。まして、神王の時代など俺直轄の軍と、一部の軍以外は機能していないも同然だったのだ。それらを整えなければならない事を考えると、とても戦が出来る状態とは思えない。
「しばらくは戦はないだろう」
「アイオンと同じ意見だな」
 ハンスはアイオンを信頼していた。そしてそれは俺もそうだ。グロリアス飛躍の戦で見せた、あの火計はまだ目に焼き付いている。
「ハンス、はっきり言って、今の俺たちはズタボロだ。外面は実に華々しいが、内面は荒れ果てていると言っていいだろう」
「あぁ、わかっている」
 だが、整える事ができる。そして、整えることができれば、それは大きな力となる。
「しばらくは調練だ。軍力が拡大した。将軍も増やさねばならん」
 兵の調練は、ラルフ将軍が適任だろう。あの人の槍さばきは目を見張るものがある。俺の剣とも互角だ。バリー将軍は将軍の育成を、ローレンは若い者らの中心人物として活躍するはずだ。つまり、軍を整える環境はすでに揃っているのだ。必要なのは時間だけだ。
「時が必要か、やはり」
 ハンスの声が弱まった。
「必要だ」
「私には子がない。後継者を、グロリアスの次期当主を決める時が、近々訪れる」
「ハンス」
「すまない。この話はやめだ。ラムサス、軍事は任せたぞ」
 ハンスが席を立ち、奥の部屋へと歩いて行く。
「お前は死なん。いや、死ぬ前に俺が天下へと連れて行く」
 俺はそう言ったが、ハンスから返事は無かった。

       

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