Neetel Inside 文芸新都
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「ドーガの調子はどうだ」
 私は書類を書きながら、ラナクに尋ねた。
「大分、落ち着きを取り戻しました。火を見ても怯えぬようにもなりました」
 ドーガは、数年前のグロリアス飛躍の戦で、火計を仕掛けられた。ドーガ軍は全滅で、エクセラの国力もかなり削がれた。これを機に、ドーガは覇気を無くした。そして、火に対してトラウマを植え付けられていた。このままでは使い物にならない。そう考えた私は、ラナクにドーガの世話をさせていたのだ。
「戦には出られそうか」
「いえ、それはまだ無理でしょう」
「国力は充実しつつある。有能な人間は一人でも必要だ。ドーガは有能な部類に入る」
「はい」
 ドーガの容姿は醜い。大やけどのせいで、それはまさに正視に耐えぬ醜さで、吐き気がした。しかし有能だ。自分の感情で、大事を疎かにするわけにはいかない。
「まだドーガは、ラムサスを憎んでいるか」
「はい。親の七光りだけは許さぬ、と毎日のように申しております」
 親の七光り。私もそうなのかもしれない。私の父ルーファスは、政治の天才だった。ラムサスの父は浪費に次ぐ浪費で軍事を取り仕切っていた。父は、そんな内情でも国を支えていたのだ。そして、その子である私も、親の七光りなのか。
 違う。私は私だ。私は父を超える。いや、超えている。
「ラムサスは、出来れば殺したくないのだがな」
「ルース様」
「分かっている。今は敵同士だ。だが、こうして独りの時が続くと、唯一肩を並べたあいつが恋しくてな」
 離れてから分かった。ラムサスの存在は、私を支えていたのだ。そして唯一、私が認めた人間でもある。
「すまん、気分が悪い。下がってくれ」
 そんな事を考える自分に嫌悪した。こういう時は一人になった方が良い。
「はっ」
 ラナクが出ていく。その背を見つつ、私は独りで天下を取る。そう思い直した。
「ラムサス、お前はグロリアスで何を得る」
 情報では、ラムサスはグロリアスで軍団長になったという。軍団長と言えば、軍事の最高権力者だ。ラムサスの意思は定かではないが、祭り上げられている可能性はある。
「調べてみるか」
 ついでにグロリアスの内情も探る。ここからは諜報合戦になってくるのだ。相手の情報をどれだけ握って、自分の情報をどれだけ漏らさないかがカギになってくる。そしてそれは、グロリアスも分かっているはずだ。
「戦の時は近づいている。ラムサス、お前は」
 エクセラに戻ってこないのか。
 いや違う、私に仲間は必要ない。
「私は、王の器ではないのかもしれんな」
 独り言を呟き、思わず苦笑した。

       

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