Neetel Inside 文芸新都
表紙

親の七光り
追放、そして

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 反乱軍が軍を退いた。この戦は、勝ちも負けもない。俺のただの自己満足で完結した戦だった。
 死んだ者が二百、負傷兵が六百。厳しい戦だった。
「神王から、お咎めがあるでしょうな」
「気にするな、ギリ。処罰が発生したら、俺が全てを負う」
 勝ってもいなければ、皆殺しにもしていない。それなりの覚悟はしているつもりだ。
「しかし、何故、敵将を生かしておいたのです。あの男は天才です。遠目から見ても分かりました。後の災厄となり得ます」
「辺境に楽しみを作っただけだ」
 一騎討ち。今まで生きてきた中で、あれほど生を感じた時は無かった。やはり俺は、戦人なのだ。
「強い人が言う事は、私には理解できません」
 ギリが駆けて行った。
「辺境に戦友が出来た。それだけの事だ」
 空を見上げ、呟いた。

 エクセラが見えてきた。改めて見ると、壮観だった。堅固な城壁に囲まれ、まさに難攻不落と表現するにふさわしい城だ。
「全軍、歩を緩めろ」
 神王がうるさい。馬蹄が気に食わないらしいのだ。
 城門が見えてきた。鉄扉。だが、妙に静かだ。様子がおかしい。
「軍神ラムサスが帰国した。開門を願うッ」
 沈黙。何かあったのか。俺が居なくても、他の将軍が居る。敵が攻め入ってきても、大軍で押し潰せるはずだ。
 次の瞬間だった。矢の嵐。上からだ。
「なっ」
 すぐさま鞘から剣を抜き、迫り来る矢を払い落とす。同時に見上げた。弓兵。城壁に何人も居る。
「どういう事だッ」
 再び矢の嵐。一体、何が起こっている。
「全軍、下がれッ」
 同時に馬首を巡らせた。駆ける。
「ラムサス、神王の命に背いたなッ」
 聞き覚えのある声。
「ルースかッ」
 カルサス軍の参謀、ルーファスの息子だ。戦神カルサスの脳、とまで言われていた。その縁で、俺とも仲が良い。だが何故。
「ルース、何でこんな事をする。神王の命に背くとはどういう事だ」
「とぼけるのか、ラムサス。お前は、神王からどういう命令を受けた」
「反乱軍を鎮圧しろ、という命令だ」
「先ほど、諜報員から聞いたぞ。お前、反乱軍を見逃したそうじゃないか」
 見逃す? 結果は確かにそうだが、決して無策で見逃したわけではない。
「違う、それは」
「それに神王は、六万で討伐しろ、と命令したと仰られていた。今のお前の軍、どう見ても六万ではあるまい」
 初耳だ。なんだそれは。
「何を言っている。神王は数の指定はして来なかったぞ」
「お前と神王の言葉、どちらが正しいかなど、今更言うことでもなかろう」
 何を言っている。話が噛み合わない。
「俺の話を聞け、ルース」
「神王は六万と言っている。ならば、六万の軍を連れていなければおかしいだろう」
「それは神王の」
 虚言ではないのか。だが、言えば不敬罪となる。
「ラムサス、お前はエクセラの軍神だ。私は、お前の右腕となるべく努力をしたと言うのに・・・・・・」
「話を聞け、ルース。お前は何か勘違いをしている」
「すでに、お前の処罰は決まっている。命令違反は本来、斬首刑だ。だが、お前には偉大な父が居た」
 一体、何が起きているのだ。俺は、反乱軍を鎮圧しに行っただけだ。戦に勝たなかったから? 皆殺しにしなかったから?
「その父に免じて、神王はお前をエクセラ追放で済ませる、と仰られている」
 何故、こんな事になっている。不意に、ランドの姿が思い浮かぶ。出陣前のあの慌てようが頭に浮かんだ。
「だが、お前の兵たちは無罪だ。お前だけを追放する。後は、どことなりと消えるが良い」
 ルースが背を向けた。歩き出す。
「待て、ルースッ」
 見えなくなった。
 ランド。あいつ、何か知っていたのか。知っていた? 何を? ダメだ、頭が混乱している。
「ルースッ」
 デンコウに鞭を入れる。矢嵐。デンコウが棹立ちになる。進めない、そう言っている。
「何なんだ、説明しろッ」
 心臓の鼓動が、妙に高鳴っていた。

       

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