一方、アリスとユウトは相変わらずの主従関係だった。
アリスの部屋。机がある部屋の一角に二人はいる。
「ユウト、紅茶が冷めたわ」
「そうか? さっき入れたばっかりだぞ」
「……」
もはや、取りつく島どころか、ユウトは飛んでいる鳥にもしがみつきたいところだった。
「ユウト、ここの問題がわからないわ」
「そこはさっきも教えた公式に当てはめてだな――」
「もう一度公式から説明してって言ってるの」
こんなやり取りが、もう一時間近く続いている。
最初から部屋にいたリースも、アリスに忙しいからと放牧された。
今頃どこかを寂しく歩いているのかと思うと、ユウトの胸は苦しくなる一方だった。
シーナのことも気になるユウトはいよいよアリスに何か一言言ってやりたい気分になる。
「アリス」
「あによっ」
「もう少し、みんなと――」
ユウトはアリスの顔を見て、それ以上なにも言えない。
アリスの細い眉はハの字に歪んでいたからだ。
「ごめん……」
何故だか自分が間違っていたと思ってしまったユウトはアリスに謝っていた。
「もう寝るから」
アリスはちょっと震えた声でそういうとベッドに向かう。
「アリス、話しを聞いてくれないか」
ユウトはアリスの片手を掴んで言った。
「放して」
「俺は、アリスのそばにはもっと色んな人がいなきゃ、だめだと思う……」
「――っそんなこと、今更遅いのよッ」
軽く握っていただけの手を振り解くと、アリスは今度こそベッドに潜った。
ベッドの中からは嗚咽のようなものが聞こえる気がした。
ふとベッドから呼ばれた声にユウトは反応する。
「ユウト……」
「何?」
「どこにもいかないで」
「…………わかった」
静寂に包まれた部屋の中で、時間だけがゆっくりと過ぎていった。