龍のような頭を持ち、体は無数の鱗で覆われていた。
マナの大きさからただのモンスターではないことが容易に理解できる。
人語まで話すところを見ると、もはや数百年は生きた類だ。
そして、元々寿命が低いモンスターが長く生きる術は一つしかない。
「エレメンタルの力か……」
『いかにも……この高山にはエレメンタルが絶えない。寄ってくる他の同種も多いしな』
通りで敵が一匹も出なかったのはそういう理由か、とユウトは納得した。
ユウトは剣を構えて、アリスたちを背中につける。
「敵は空間を閉鎖して使用マナの上限を固定した。
こういう場合はより大きな魔法を使って戦った方が勝つ。
知りうる限りの強力な魔法を連発してやるんだ」
「ちょっと、何いきな――」
『グォォォオオオオオ――――』
突如三人に放たれたのは火炎球だった。
ユウトの言葉が真実であったからこそ、ハルバトは攻撃せざるを得なかったといえる。
「くるぞっ、散れ!」
じゅるりと音がしたのはアリスの髪の毛だった。
「ああっ? あんた、なんてことしてくれんのよ!」
アリスが跳んだ後に残った髪は焼け焦げて短くなる。
「おい、そんなこと言ってる場合か!」
『グゥゥウウウウウ――――』
ハルバトは尻尾の先に炎を纏ってユウトを払った。
「Melva!(水流)」
シーナは既に詠唱していた魔法を解き放つ。爆発のような水の流れがハルバトの尾をあらぬ方向へいなした。
「助かる!」
この隙を好機にとらえ、ユウトはハルバトの背中に肉迫した。
尻尾を大きく仰ぎ、バランスを崩した背中を守るものはない。
――ザシュ。
軽快な肉を裂く音が響き、ハルバトは雄叫びを上げた。
「グググ――人間ごときが……」
シーナがあれほどの魔法を放つことは誰も予想できなかったに違いない。
それだけにユウトは今の一撃が致命傷に至らなかったことを悔やんだ。
「これも修行だ……」
大剣を持っていれば一撃だっただろう。
しかし、あの剣を使うと逆に強すぎるだけにユウトは己自身の力を過小評価さえしている。