「報告致します」
教職員会議では各々のメイジ達が十数人で円卓を囲みどよめいていた。
「ミス・レジスタルの使い魔は三日前にイスムナ国からの申告により、
ジャポルで引き取るようにとの伝達です」
「ふむ、生きていましたか」
「ミスタ・ホワード」
薄暗い石壁に囲まれた部屋の中、
低いうねりのある声で円卓の一番奥にいたメイジが呼びかけた。
すると、辺りのざわめきは一瞬で収まり、静寂が訪れる。
「はい」
起立するホワード。
「君は最後に例の使い魔を見た者かの?」
「はい……」
「……どうじゃった――君の目から見て」
皺と白髪の顔から覗かせる瞳はぎらりと眼光を放ち、
ホワードに有無を言わせない迫力を秘めていた。
ホワードは決して半端なメイジではない。
教師相応の上級クラスのメイジだ。
しかし、そのホワードがここまで萎縮している相手は老人である。
「どうじゃったのかね。率直に述べよ」
ホワードは額から熱いものを感じ、汗を掻いていた。
間違いなく目の前の老人が放つ抑えきれないマナが奔流している片鱗であった。
「っ、普通――いや、ただの子供だったと記憶しております」
絞り出すような声を横目に老人は目線を逸らし、ふうむと一言。
途端に涼しい風が吹き、ホワードは溜め息をつかざるを得なかった。
「解せぬ」
それは地響きのような存在感と共に放たれた。
「ミス・ロジャー」
続けて野太い声で老人は呼ぶ。
半ば引きつったような声で女性は返事をした。
「例の使い魔を召還したのはただの少女だと聞いていたのじゃが……」
「え、あ、はい。うだつの上がらないメイジですが」
ここに来て老人の顔は尚、解せぬといった面持ちでくぐもった。
「君は彼の者に懲罰を与えると言っていたのう」
「は、何分最初は普通の、それも自分よりも矮小な少年であったことから、使い魔としてではなく、
モノのような感覚でいたことから言及する所存です」
「揣摩憶測はよい。君が与えるその膺懲(ようちょう)とやら、如何に考えておるのか聞かせてもらえぬかの」
ロジャーは額の汗を拭きながら答える。
「まだ……、決めかねております。何分、使い魔を無下に扱うなど言語道断、
そのようなメイジは当校に一人としておりませんでしたので……」
ふむ、と軽く息を吐く老人は髭を撫でながら
「――では、退学ということかの」