しばらく進むと、園長室が見えた。
またここかとユウトは思ったが、アリスは話しかける隙もないままどかんと踏み入った。
「大先生(ビックマスター)! あんたのひ孫が留年するわよ!」
「なんじゃい。騒がしいのう……」
白衣に身を包んだ老人は明らかにマナを部屋中に充満させていた。
大層おっくうな様で振り返る。アリスは全く意に介さずフラムの元へ進んで行ったが、
心得のない者なら入り口で途方に暮れて立ち止まるようなマナの圧力だろう。
アリスが話しかけたことで、部屋に充満したマナがフラムの体へ戻されていくのをユウトは確かに感じ取っていた。
「先生のひ孫、セイラが留年確定にされたのよ、それも下級生に。そんなのってあり得ないでしょ?」
「セイラ……? セイラは末孫じゃよ。曾々々孫くらいじゃの」
ユウトはこの老人がただの人間ではないことを改めて痛感した。
「……な、なんでもいいわ、で、娘なのは変わりないでしょ。それで良いの?」
「いいの? とはまた理解に苦しむ言い方じゃの、それがどうしたんじゃ」
「どうしたじゃないわ、メィンメイジの一つ下のメイジ階級に負かされて『どうした』ですって?
セイラは私たちの中でも一番の実力者じゃない。
それを簡単に負かすってことは最上級生でも勝てるかどうかというレベルじゃないのよ」
「まて、アリス。決して簡単に負けたわけじゃない」
ユウトの声は全く意に介していなかった。
むしろ、アリスはユウトに睨みを利かして黙っていろと言わんばかりだ。
「ふむ、確かにセイラが負けたことについてはワシも聞き及んでおる。
しかし、何のための決闘制度かと言えば、実力あるものがこの学園を上も下も関係なくいち早く卒業できるよう仕組んでおるからなんじゃ」
「――」
「案ずるではない。セイラを倒したことで、既にその勝者にはセイラと同等の学年と地位が与えられることとなる。
もはやお主らとの決闘はあり得ぬよ」
アリスは拳を握っていた。スカートの下、白磁の太腿の横でその手は戦慄いていた。
「そういうのは、納得できません」
「納得できないとはどういうことじゃ? お主は関係ないのじゃぞ」
きゅっと唇を噛んだ後、アリスはおもむろに言った。
アリスは無造作にポケットからポイントカードを取り出し、足下に叩き付ける。一瞬の出来事だった。