Neetel Inside 文芸新都
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 スーシィの魔法がゆっくりと解けると、一行はしばらく押し黙った。
「……なあ、周囲と対象者へのマナドレインってそんな反則技習えるのか?」
 ユウトの問いにスーシィは言葉を紡ぐ。
「一人前のメイジですら、恐らく習得してはいない魔法よ。モンスターなんかはたまに持ってるけど、ハルバトはそれだったかしら」
「……あいつは元々がエレメンタルのせいで、ただのモンスターじゃなかっただろ」
「そうね」
 このままでは生徒全員とルーシェで戦ってもよほど上手く戦わないと互角にすらならない、そんな心持ちが皆の中に沸いた。
 
 クラスへ戻ってもどこか物静かな暗澹とした空気の流れ。
 グロイア・デオの戦いから降りるといった生徒を無理に引き留めようとする者もいない。
 授業は重い空気の中で終わりを告げた。生徒達はいつもの覇気どころか、まるで処刑台に上がるのを待つ囚人のような面持ちで教室を後にする。
 スーシィとシーナは最近一緒に使い魔を貸してくれる子を探していると言い、アリスとは廊下の手前で別れた。

 アリスはそれを「あ」とか「うん」と始終受け答えしていたが、ユウトにはアリスが狼狽しているように見えた。
 廊下に出ると、アリスは久しぶりに自分の研究室に行くと言い出した。
 書籍ばかりが辺りを埋め尽くしている雑多な場所だ。
 アリスは調べ物があると言ってその研究室へ向かい、中に入る。

 当然のごとくそこはホコリだらけになっていて、
 アリスはマントの裾で鼻を覆いながら本の山を掻き分け始めた。
「そういえばユウト、あんたマナとか持ってるの?」
 アリスの放った本がユウトに埃を飛ばす。
「げほ、……ないよ。黒服のじいさんもそう言ってた」
「ふうん、じゃあマナドレインは効果がないのね」
 アリスはどこか呆けたような返事を返した。
 マナドレインはユウトに効果がないが、魔法は効く。ユウトは冷や汗をかき始める。
 アリスは一冊の本を手に立ち上がって、適当に開くと読み始めた。
 そこで、アリスは不自然に背を向ける。

「ルーシェと戦って勝率はどれくらいだと思う?」
「ぶっちゃけ二割……だ」
 これはユウトが今の剣、ツェレサーベルを使って戦った時の話しだったが、
 戦わないに越したことはないので、下手なことは言わないようにした。
「よしっ、これだ」
 アリスは古色蒼然とした本を手に廊下へ踊り出しす。
「なにしてんの? 早く来なさい」
 てっきりルーシェと戦えと言い出すのかと思っていたユウトは肩すかしを食らったかのようにぼうとしてしまった。
 ユウトは何故アリスが研究に打ち込まなくなったのか気になっていた。
 あの日、アリスの口から全てが語られた時からアリスの研究はなくなってしまったようにも思える。
 そしてユウトはその理由を知る手段は思いつかないでいる。

       

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