Neetel Inside ニートノベル
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或る夏の物語
6週目

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●6週目



僕は今、母親の実家に来ている。
山陰の海辺近くにある田舎。幼少時代、此処で過した昔日が思い出される。


普段なら会社で仕事をして、こっそりチャットに顔を出している時間だった。
けれど平日のこの時間、この場所に僕が居るのには訳がある。

祖母の葬儀に出る為だ。



「お婆ちゃんが亡くなった」

その報せを受けた時、うまく理解できなかった。
いや、言葉として耳には入ってたが、日本語として理解するのに時間を要したと言っていい。
生返事をして電話を切る。
まだ考えがまとまらなかったが、すぐ帰って来るように言われたので、その日は会社を早退し、暫く仕事に出れない旨を連絡しておいた。
さんたにも一応、チャットに行けない事をメールしておく。
理由は伏せた。



実は1・2ヶ月ほど前に祖母は脳出血で倒れてた。
だけど一命をとり止めて、今は順調に回復してると聞かされていたのに……。

つい先日見舞いに行った時も、順調に元気を取り戻している様子だった。



まさかこんな事になるなんて……。



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人生で何度目かの葬儀。

子供の頃、良く知らないおじいさんの葬儀に連れて行かれた時は意味もわからず、お菓子やジュースをもらって喜んでた記憶がある。
でも、今回は今までで一番ショックな、一番悲しみが深い葬儀……。


世に永遠は無いと思い知らされた。
同時に、深い後悔の念を感じる。

不思議と涙は流れなかった。
僕は泣くことすら忘れてしまったのだろうか。
悲しすぎると涙も流れなくなるのだろうか。
それとも、単に僕が冷血漢なのか。



猛暑の季節が終わりを告げ、秋の気配が感じられた。
車の窓から冷たい涼しい風が吹き込んで来る。
まだ9月だというのに少し肌寒い。

その風は僕の心まで凍らすように、冷たく感じた。



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葬儀を終え、家に帰ってきても何もやる気が起きなかった。
会社の休みは1週間取ってある。


チャットに行く気は起こらずパソコンを起動するのも躊躇した。
パソコンを立ち上げるとチャットに行ってしまう自分を自覚してたからだ。
そして、チャットに入っても前のように笑って話せる自信が無い。
今はとにかく時間が欲しかった。

自分を落ち着かせる時間が……。



そんな状況だったから、自分にメールが届いてると気付いたのは、送信日から4日も過ぎた後だった……。



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