――大輔が公園から去った後、和葉と冬羽の会話。
『宮村大輔(18)
舞雲高校三年生。
彼女なし。
趣味、ピアノ(だが、恥ずかしくて人前では弾かない)
家族、姉(両親はすでに他界、五つ上の姉と二人でアパートに住んでいる)』
「と、基本情報はこんなもんかな。でも」
和葉は右手に浮かんだテレビのような画面から顔をあげ、目の前の白い子供に話しかける。
「冬羽ちゃんが僕以外の人間、それも生きている人間に興味を持つなんてちょっと信じられないよ。しかも“お守り”まで渡すなんて、ね」
フッと和葉は鼻で笑い、手元にあるギターをぽんと叩く。
「和葉、お前は人間じゃないだろう」
無表情のまま、冬羽はベンチに座った和葉を見つめる。
「今は人間だよ、今は。亡霊だけどさ」
和葉はそう言って夜空を見上げる。
鈴虫のりーんりーんという声が、公園じゅうにこだましていた。
と、和葉は急にまじめな態度に切り替える。
「なんで“お守り”を?」
「……近々、ミシマが動く。いや、目覚めるといったほうがいいかな」
白い彼女はため息をつく。
和葉が目を見開く。
「冗談だろ?」
何かの間違いだ、と和葉は目の前の子どもを睨む。
「あの坊やに私たちが見えたのも、通常ならあり得ないことだよ。あの坊やに霊感があるとは思えないし。それに、最近気配がするんだよ」
「……ああ、なるほど」
そう言って和葉はギターを奏でる。いつもと違ってぎこちない音色だった。
「だから、……私の声が聞こえる人間に、早々死なれては困るんだ」
そして彼女は両目を閉じ、「ふふふ」と力なく笑った。
「……まったく嫌な奴だな、私は」