Neetel Inside 文芸新都
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定時後、俺は鉄火に会おうと速攻でタイムカードを押し、伝票にハンコを押してから帰ってぇなあ、
という向井に「あー、明日朝イチでな」と生返事、工場に走った。
またもTIGとすれ違いそうになるが、材料を吟味する振りをし、
いそいそとした様子を見せないように努める。
こういうところで俺の小動物的な本能が発揮されるとはTIGも思いもしないだろう。
だがいつまでも材料とにらめっこしているわけにもいかない、鉄火の元へ急がないと。

鉄火の定盤のあたりまで来ると、鉄火がビールケースを用意していた。
ビールケースを踏み台に、棚の上の材料を取ろうとしているようだ。
だが見ているとあと数センチというところなのに、
取りたい材料が奥まったところに置いてある為届かない。
その様子と彼女のやわらかそうなヒップを眺めていた俺だが、
もたもたする鉄火がやがて俺に気づいた。

鉄火
「ねえ、いいところに来たじゃんwちこーっとだけこっちに来てくれない?」

ちっ、せっかくバックから撮影されたプリプリと踊るお尻の様子を
俺様の高精度USB接続脳内HDDに保管しようとしていたところなのに・・・。
とはいえ折角の鉄火の申し出だ、これを断る手はあるまい。
俺が鉄火に近寄ると、彼女はそのふっくらとしたお尻を俺に再度向け、
腰の辺りをチョイチョイと指差しアピール。腰を支えろということらしい。

俺は思わず手のひらを作業ズボンでゴシゴシとこすりつけ、汚れていないかをチェック。
彼女のツナギの腰の辺りを緊張と共にがっちりホールドする。
この感触・・・・・いまだかつて触った事の無い柔らかさだ。

いや、いまだかつてはいうものの俺自身女性の体に触れた事自体ほとんど無い訳だが。
なんといっても中学校のフォークダンスで女生徒と手を握ろうとしたものの
ほぼ全員といっていいほどに手を触れるのを拒絶された位だから。
とにかくいまだかつてない感触に俺は心躍らせた。

ふと、昼間聞いたもののド忘れしていた彼女のスリーサイズの事を思い出し、
彼女にあの暗号をもう一度教えてもらおうと思った。
そして俺が口を開こうとしたその時

鉄火
「だいじょうぶ?じゃあっ・・・!!」

鉄火がビールケースの上で爪先立ちになり、棚の上に手を伸ばす。
彼女を支えながら、俺は事務所勤務ならではの非力っぷりで
彼女を鼻息まで荒くさせながらサポートする。

そして彼女が更に背を伸ばそうとしたとき、
彼女の爪先がビールケースの角を思わず蹴り出した為、
ケースはギチギチという音と共に俺のほうへズリ出てきてしまった。
それにより彼女の両足は完全に中空に遊んでいる状態になり、
今、彼女を支えているのはこの俺の細腕二本のみとなる。正にヘブン状態。
俺は聞こえても構わないと彼女の腰を掴んだまま

「フンガッ!」という声と共にフェイスバーストモードを開放
するとほんの少しだけ鉄火が持ち上がり、彼女の嬉しそうな声が聞こえた。

鉄火
「やった!取れたよ!ちょちょちょ!やっぱ怖いから早く降ろしてww!!」

最後の圧縮粒子を搾り出し、怪我をさせないようにゆっくりと彼女を降ろす。
彼女は手をパンパンとはたきながら俺にビニール袋に入れられた冊子を手渡す。


「?・・・なにこれ?」

鉄火
「出してみて」

手渡された袋の中身、それは鉄火の大人びた字で書かれた一冊のノートだった。

『各鋼材、用途に合わせた溶接技術と電圧、電流の覚書き』

鉄火
「ここ来た時に無くしちゃってたんだ、今日必死で探したんだよw良かった見つかって」


「・・・?」

鉄火
「?いらない?この前ずっと私の溶接見てたじゃん、勉強したいのかなと思ってさ」


「あ、おう、そやね、勉強、してた」

鉄火
「今度溶接教えてあげるよ、工場長に話してみるから」


「あ、うん」

俺は彼女の『溶接虎の巻』に掛かった埃を丁寧に払い、下を向いた。
こういう時、どういう返事をすれば良いのかも分からないのだが、
この俺に沸いてきた感情が何なのかは分かっているつもりだ。

人の優しさや思いやりに触れるって、ありがたいものだな、と

       

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