Neetel Inside 文芸新都
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○向井が酒を飲み、俺が飯を食い終わった後で、少々のおくつろぎタイム。
俺は下唇を突き出し、向井に何を話しかけようかと色々考えていた。
一応リラックスはしてるんだぜ、という俺なりのリアクションなのだが、向井君、俺なりの精一杯の意思表示だ、受け取ってくれ。

向井
「なーぁw・・・・・・   凹の家に行きたい」


な ん だ と


向井
「凹の部屋、鉄火姉ちゃんだけ見て私見てないやんかwだから見たい♪」

口角を引き上げた彼女は悪戯チックな笑みを浮かべている。
向井は俺をなめている。俺はこう見えても股間にたらこをぶら下げた「男の子」だということに気付いていないのか。
引き笑いにも似た悲鳴をあげ、俺は答える。


「絶対ミリ(だって部屋にはハチワンダイバーの漫画とか、エロ本もあるんだぜ?ぜってえお前エロ本見て俺嫌いになるってw)
 また今度、な?鉄火とまた今度二人できたらええやんwな?」

向井
「なんでよー」

彼女の顔が曇った。いつの間にか俺はまた地雷を?誰か教えてくれ。
とにかく取り繕おうと最善を尽くす。


「あ・・・散らかっておりますんで、ご辞退下さい。」


向井
「なあ、鉄火お姉ちゃんのこと好きなん?」


一瞬凍りつく



「べっつにーーーーぃ」

少しの間が開いてしまったのは失策とはいえ、シャレの構えで話を逸らそうとした俺はなかなかやるのではないか。
なんといっても口から生まれた口太郎、兵庫きってのウソツキ地蔵とは俺のことなのだから。
だがそんな「どや顔」をする俺に彼女は追い討ちを掛ける。

向井
「ハッ、どうだかなー、お家に入れたしねー。」

その言葉が石化の作用をもたらし、沈黙する俺の顔を見て、彼女は敢えて顔を斜めに向け、俺を横目で見ている。
わざとらしくも可愛らしい彼女の仕草と、ツルペタ系のその胸元に俺の股間だけは石化されつつも沈黙を保たず強い脈を打っていた。
そして奇しくも俺の窮地を救ったのは、店員の「そろそろラストオーダーなんですけど・・・・」の鶴の一声だった。


「あっそうっすか、じゃあ出ますよ出ますよ、閉店遅くなってもたら悪いし」

折角差し伸べてもらった救いの手を無下にしてはいけないので、早々に席を立ち、向井にも、帰ろうという目線を送る。
地獄に仏とはこのことだ、全く有難い。

「おごるで、ええからなw」という向井を制し、慌てて財布を開け、勘定を済ませようとした俺を向井がクスクスと笑う。


「なんなん?」

向井
「ベリベリって・・・・・wwww財布wwww」

財布がなんだというのだ、RIPCURLというサーファー御用達の濡れても錆びない素材で作ってあるマジックテープ式の財布を何故笑う。
とにかく払うから、という俺に対し「ああw、ほんならゴチになります」という返事をし、向井は玄関に向かう。
「いいっていいってw!⇔いやいやいいっていいってw」なやり取りを期待していただけに少々肩透かし気味だが、まあいい。彼女も笑っているし、コレでいいのだろう。


>>兵庫きってのウソツキ地蔵とは俺→べっつにーぃ
>>凹の本心かよwwwww

洋食屋を出、舞台が車中に移ったとしても、向井ペースで話は展開していく。
そして少々酔いの回った向井は、あろうことか俺の家に行きたいなどと言いはじめた。

向井
「ねーえぇ、凹さんの家に行きたいなあ~」

俺は完全に動揺してしまい、「イヒッ?」という引き笑いのような反応を漏らす。

向井
「凹さんの部屋、鉄火姉ちゃんだけ見て、私は見てないやんかぁ」

車の肘掛に肘をつき、その先端に顎を乗せ、意地悪な微笑と共に口角を持ち上げこちらを見つめているが、俺を見つめるその眼差しは決して笑ってはいない。
俺を後々話のネタにするが為に家に乗り込む事への意気込みか、男の部屋に上がり込む事の意味を理解した上での覚悟の眼差しか、それとも、鉄火への対抗心がもたらす反骨の気概か。
その視線の意味するところはその時点では分からなかったが、彼女の真剣さが妙に恐ろしかった。
当然の如く目を合わせられず運転に夢中な振りをして俺は彼女を無視する事に決め、その場をやり過ごそうとした。
そんな俺の思惑を超えたところに、彼女の思惑は存在している事に、俺はまだ気付いていなかった。

       

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