「何か良からんことがそこにある」
それだけ言うと、タクヤの喉は正常を取り戻した。
「すみません……私のせいで」
綾女は心底申し訳なさそうに眉をひそめた。
「ほんとよ、タクヤがいなかったらあんたなんか相手にしないわよ」
「鈴音っ、頼むからこんな時にまで――」
そうこう言ううちに異変は訪れた。
ガラララ……。
「何の音?」
キャタピラを回すような機械音が鳴り響く。
「防災用のシャッターです!」
綾女は急ぎ近くの柱へ駆け寄る。
それと同時に辺りは暗くなり、何も見えなくなった。
「窓が閉まったのか?」
ぱちっという音がして、綾女を含む四人の姿が映し出される。
「火災用にこういった設備が整っているんです、火の廻りを遅くするために……」
綾女が手に持ったのは懐中電灯のようだ。
今や周りにいる人の気配だけが、唯一の気の置き所だった。
それは彼女たちも同じなようで、鈴音は少し震えているようでもあった。
「もう……なんなの、早く出ましょうよ」
しかし、窓が鉄板で塞がれてしまってはどうしようもない。
皆の口は重くなった。
「出口はあるのか?」
「はい……でも、ここを買った時から一度も見たことはないんです……」
詳しく話しを聞くと、屋上に出る階段と、地下から抜ける扉があるという。
後者は一度も使ったことがないらしく、使えるかどうかは不明らしい。