Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

「ちよ、起きろ!ほら、ちよ。」

ある朝の事。
お父さんがちよちゃんを慌てたように起こしています。

「うー…」

ちよちゃんはまだ起きたくないと言うように、頭までお布団をかぶりました。

「ちよ、起きろって。外、雪降ってるぞ!」

「ゆき…?」

雪という言葉に反応して、ちよちゃんはお布団の上に起き上がりました。
そしてふらふらと立ち上がると、これまたふらふらと窓の方に近寄りました。

「ちよ、目閉じたまま歩いちゃ危ないって。」

お父さんが優しくちよちゃんを支えます。

「…わぁ」

窓枠につかまって、眠い目をこすると、窓の外には大粒の雪が舞っていました。

「ちよ、見えるか?」
「うん、ゆき」
「ちよ雪好きだろ?」
「うん」
「外行って見るか?」
「うん」
「よーし、じゃあまず着替えないとな。」



お着替えをすませてちよちゃんは、お父さんと一緒にお庭に出ました。
雪ははらはらと、ちよちゃんのかみの毛に、体にとまっては消えてゆきます。
「きれー…」
「ほら、上ばっかり見て歩いてると転んじゃうぞ?」
「はーい」
ちよちゃんは立ち止まって、空を見上げました。
そんなちよちゃんの肩を、かみさまがぽんと叩きました。
「なぁに?」
ちよちゃんが振り向くと、かみさまは空を指差しています。
「ゆきでしょ?」
そういってまた空を見上げたちよちゃんの鼻先に、ふわりと舞い降りたものがありました。
それは小さな、真っ白い羽でした。
「あっ」
よく見ると、今までふっていた雪は、すべて真っ白な羽に変わっています。
ちよちゃんは口をあけたまま、その光景に見とれていました。

そんなちよちゃんを見つめながら、お父さんは複雑そうな顔で笑っています。
そして、「積もっちゃうかなぁ…」と呟き、時計に目を落としました。

その時、お父さんの口からこぼれた真っ白なため息は、
景色を少しかすませてから、じわりと空気に溶けてゆきました。

       

表紙
Tweet

Neetsha