Neetel Inside ニートノベル
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 そして夕食後。
 あまり美味とは言えない病院食をなんとか完食してから、僕はこれからどうするか、について思考を巡らせていた。
 とりあえずしなければならないことを、頭の中に列挙してみる。
 一、慣れること。
 二、どう暇を潰すか。
 三、あの女に遭わないようにどうやって、安穏に過ごすか。……いや、最後はどうだっていいな。そろそろ意識の外に飛ばさなければ。
 ふむ。では、一について考えてみよう。
 今までやってきたことを繰り返す。以上。
 終わってしまった。
 しかし、まあこれはこれでこれ以上の妙案は無いだろう。今までの人生を繰り返す、とかそんな大それたことはではないし、単に慣れる、ということに尽きるのだから。
 で、二について。これは本当にどうしよう。先程の一を鑑みるに、慣れることを暇つぶしとして扱うのも良いけれども、実際それはどうかと思う。
 僕にとってのそういった行為というのはあくまで手段であって、目的ではない。
 だけどなあ、ううむ。
 僕は暇、というものが大嫌いなのである。時間を無為に無駄に食い潰し、放棄する愚かな時間。まるで共食いのようなそんな無残な時を、僕は今まで出来る限りの手を尽くして、どうにか消化してきた。
 それが今、手の打ちようが無いという、どうやら詰みと呼ばれる場面へと来ているようだ。 まあ、こう考えてみるといささか大袈裟ではあるけれど。
 「本なり何なり読んだりしてたら大丈夫か……」
 纏まらなくなってきた思考を無理矢理一つの器に詰め込み、蓋を閉じる。
 そして事故の際ボロボロになってしまった財布を掴んで、ジュースを買うために僕は病室を出た。
 色々考えていたら喉が乾いてしまった。喋ってもいないのに、人体とは全くもって不思議だなあ、とは別に思いませんでした。

 もう時間が時間なので、入院棟の廊下にはあまり人がいなかった。歩いているとすればトイレに行く人や、甲斐甲斐しく働くナースさん。後はボケかけた老人が徘徊しているくらいだった。
 「あれ、そういえば小銭あったっけ……」
 急に不安になり、手に持った財布の中身を確認する。どうやら缶ジュース二本分くらいはありそうだ。少し安堵する。
 しかし大学生として財布の中身がこれだけ、というのは逆に安堵したらダメなんじゃないか?
 まあ、至極どうでもいいけど。
 僕は昔からどうでもいいことに対し、変に頭を働かせてしまうようだ。
 高校受験の時だったか、試験の真っ最中にも関わらず、どうして国語では人物の心情なんて聞くのだろう、答えは皆千差万別じゃないか、なんて考えてしまい、かなりの時間をロスした覚えがある。気づいた時には、確か試験時間のラスト十分くらいじゃなかったかな。それでよく受かったもんだ。
 最近ではそういうことを避けるために、無理矢理思考のサーキットを断線するようにしている。放っておけば際限なく考えてしまうからだ。実際、大学受験の時には注意して、問題を解いていた。
 結果は、今こうして大学生やっていることが証明してくれている。
 と、そうこうしている内に自販機の前まで来た。ほら、どうでもいいことを考えてるから、また時間が消し飛んだ。
 財布の中から硬貨を数枚、落としかけながらも取り出し、自販機に食べさせる。
 数秒迷ってから、あだ名のような名前をしたオレンジジュースを選んだ。ゴシャ、ゴンという鈍い音がして、缶ジュースが自販機から吐き出される。
 それを取り出し、プルタブを開けようとしたところで僕はそこから脱兎の如く、逃げ出したくなった。
「うへえ……」
「あら、こんばんは。同類さん」
 どうやら、今晩はちょっとした夜になりそうだ。
 そんな感じたくもない予感が、僕の中を駆け巡った。

       

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