Neetel Inside ニートノベル
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ヘヴンズリング

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 俺は少し迷ったが、先に帰ることにした。
 というのも、今日は週間雑誌を買いに行く日でもあるからだ。
「沖村玲一さんですね」
 校門を出たところで、急に自分の名前が出たので玲一は驚きに振り返った。
「そ、そうだけど……」
 顔をみたところ、風紀委員や先生ではないらしい。
 しかし、なんというか、同じ生徒にしてはやけに大人びていた。

「あなたに話しがあります。まぁ、義理はないのですが」
「はぁ」
 美人に話しがあると言われてついていったら悪徳商法なんてざらなこのご時世、ついていくなど馬鹿げていた。
 それでも、この女は何やら形容しがたい雰囲気を漂わせていたのだ。
 並んで歩くとすれ違う人のいくらかは振り返っているようだった。やはり美人だ。
 二人は街路をいくらか歩いたところで、ファミレスのようなところへ入った。

 女生徒と一緒というのはいささか緊張したが、やけに相手が落ち着いていたので玲一も舞い上がっていた気持ちは冷めてくる。
「それで、そっちの名前は」
 適当に飲み物を注文し、女へと向き直った。

 女ははっとした様子で、
「あ、これは失礼しました。私は神無城香織と申します。二年です」
 慇懃な挨拶もほどほどに香織と名乗る彼女はとても同年代とは思えなかった。
「どうしてそんなに真丁寧なんだ。同学年だろ?」
「これからお話しすることが、あまりに馬鹿げているから……」
 一般人の理解では、と歯切れ悪く付け加えた。
 香織はとある田舎に生まれた。少子化に伴い近くの学校が廃校になったので、今の街に移り住んでいるという。

「私はむかし、その村に根付いていた宗教「カワリノミコト」という儀式を執り行っていました」
 いきなり話しが飛んだので玲一は手で制した。
「ま、待ってくれ、そんな話しを俺にする理由は何だ?」
「あなたは最近、妙な感覚に悩まされているはずです。
 人類の新しい進化ともいうべきある感覚に」
「は……」
 思い当たる節がない。強いて言えば、最近自殺した男に妙な親近感を覚えたことくらいだ。

       

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