Neetel Inside 文芸新都
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3.参宮橋のコンサート

篠田秀彦はもともと音楽家である。「幸せの輪」も、もともとは精神論が発展し
バンド活動の資金源となったのだ。
「だからと言って久里浜に家を建てるまで生活費を稼げるものか?」
彼はもともとは清瀬市を拠点にしていたのだが、強引な集金方法は問題になり
久里浜に家を建てたのだが、資金の出所はもちろん「幸せの輪」の会費である。
そのため彼は「幸せの輪」は自分の個人の活動と言い張る、しかし
「他人を巻き込んで金をださせりゃ立派にサークルじゃねえか!
会員は自分らが振り込んだ金の使途を知りたいはずだよな
それが明らかにならないなんて町工場ならいざ知らず
200人規模の会社で社長の交際費が分からないなんて許されるか?」

加えて会員の住所録が清瀬市の図書館に保管されている事実が明らかになり
図書館は公開を中止した。秀彦はもともとその図書館の司書だったのだ。
「本好きで頭のいいやつがやりそうなことだ、俺でもわかる」
明も叔母が有名な漫画家ということと病気がちなことがあって
本好きで全国あちこちの図書館に通っていたのだ。
明も何気ない顔して清瀬市の図書館の目録を調べていたのだ。
司書に不審な顔をされれば名刺をそっと見せながら「館長かその代理者をお願いしたい」と
告げて責任者に面会を迫った。幸い館長から話を聞くことができたが
その内容は篠田は結構手癖が悪くて評判は最悪、すぐ追い出したと迫る。
蔵書についてはここにはないと突っぱねた。

「大した収穫じゃあなかったな」」
「先日報告しただけで十分区長も震えあがっていることだろう
後は篠田に接触したいが」
「明、そりゃ危ないんじゃねえか?」
「やってみるしかねえだろが」
「おまえのその性格は叔母さん譲りだな」
すると「幸せの輪」のページの中に広告を見つけた。
「篠田秀彦コンサート、記念すべき100回目、於 国立青少年センター」

「これだ!」
「これに行くのか?」
「インチキ音楽家篠田秀彦の曲がいったいどういうのか値踏みしてやろーじゃねえの!」

数日後、代々木の青少年センターの一室にスーツで身を固めた二人がいた。
コンサートにしては異質で、名簿に名前を書くコンサートは異質だった。
二人は何食わぬ顔でまともな住所を書いていた。
しかも二人はわざと眠たそうな顔をして最前列に座っては眠っていた。
「あのお、起きてください」
「失礼、つい暗い曲で眠くなってね」
「これはフォークですので」
「もっと明るい曲やろうよ」

「ずうずうしい奴らだな、何者だ?」
「それが、会員名簿にのっていないんですよ」
「何だと?このコンサートは非会員に知られることはないはずだが」

「何者だ!」
すると明と陽二は笑みを浮かべて動き出した。
「幸せの輪主宰、篠田秀彦殿とお見受けした!」
「あいや~篠田殿、暫く~暫く~」
二人が立ちあがった。
「これ!悪徳同人誌の主宰者よ!明治神宮を恐れぬ不届き者!今に天罰が下るぞ!」
「貴様ら、何者だ!」
「当年とってここに筋熊の彩りを見る寒牡丹
日本きっての豪傑は家の都合で御免なせえとほほわって白す!」
「問われて名乗るもおこがましいが、文京区消費生活相談員、種村明とは俺のことだ!」
「同じく木下陽二、篠田に尋問の筋これあり!」
しかし篠田はすぐに逃げ出し、とりまきたちと明と陽二は大騒ぎになった。
「やる気、ようし、かかってこい!」
実は明も由紀も剣の達人である。
「抜けば玉散る氷の刃!受けてみよ!」
明は舞台にあった棒だけを頼りに10人ほど一気に倒した。
「種村明をなめんじゃねえぞ!おい!篠田はどこにいる?」
「それが我々も久里浜としか」
「家はわからねえのか?」
「詳しい場所は・・・」

袖から見ていた篠田はただただ驚くばかりであった。
「あんな奴は見たことない」
「主宰、あの二人の情報が手に入りました。
種村明、文京区職員、特技趣味多数。
52もの資格を持つなんでも屋。普段は温厚だが
剣道3段の使い手、パソコンから将棋まで通じている男です。
危険物取扱免許も持っていて爆薬や石油の使い手ですよ」
「ある意味厄介な相手を敵にしたもんだ」
「もう一人は木下陽二、種村の幼馴染で
こちらもかなりの知識を持っています」

二人はすぐさま文京区役所に呼ばれたが、区長のおかげで不問とされた。
「あの様子では久里浜の篠田の家を見つければ俺たち二人で十分だ」
「あんなちっぽけなメガネ野郎、俺達でかたをつけるぜ!」
もちろん二人とも無鉄砲ではない、明には計画があったのだ。

       

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