Neetel Inside 文芸新都
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9.パレスサイドの思い出

明はそのまま歌舞伎町に来てクレープを食べていた。
歌舞伎町でクレープというのは不思議な気もするが、実は原宿よりも
歌舞伎町やゴールデン街などの方がクレープ屋が多い。
明は男性にしては珍しい甘党で、中でもカスタードチョコ入りが大のお気に入りだった。
「で、明、これからどうするんだ?」
「すでに考えはあるんだが、その前に竹橋にいかないか?」

竹橋、それは皇居前に立つパレスサイドビルである。
このビルに入居した会社は、必ず経営破たんするとまで恐れられた
「祟りのビル」なのだ。

「もう10年もたったんだなあ・・・」
「あの頃はおれたち高校生だったしなあ…」
今からおよそ10年前の暮れのことだった。
経営危機に陥っていたRD社に大勢の被害者が詰めかけていたのだ。
「篠田編集長を出せ!」「RDは被害者に弁償しろ!」
しかし編集長は雲隠れし、弁償などできるはずがなかった。
すでにRD社の売り上げは実質3万部を下回っており、おまけに40億円以上の
債務超過に陥っていたため、弁償どころの話ではなかった。
そのためRD社は自己破産を計画していたのだが、これに起こった被害者たち数千人が
RD社の本部があったパレスサイドビルに集まっていたのだ。
何を叫んでも回答がなかったため、一部の被害者がビル内に乱入した。
この騒ぎに明と陽二がいた、二人も親共々被害者である。

RD社の手口はこうであった、まず雑誌で希望者を募ってRD社の販売するグッズの
代理販売店を開業させる、商売をやるわけだから当然RD社の指定する銀行から金を借り
しかもその銀行は東京都内しか支店がない地方銀行だった。
商品を仕入れて友人などを誘って会員を増やし売り上げを増やす、うまく売り上げが増えればいいが
大半は売り上げなどないに等しくなるばかりか、友人関係まで破たんさせた例がほとんどであった。
しかも代理販売店は応募した人個人が銀行から金を借りてRD社から商品を仕入れるといったやり方なので
RD社は在庫の買い取りに応じなければ、借金と商品が残る仕組みだった。
しかもこの商品はRD社の息のかかった「バッタ屋」が突然現れてただ同然で買っていく
つまり販売代理店側には借金だけが残る構造である、しかもRD社は必ず代理店に有限会社を設立させる
仕組みなので、「商行為」となり、消費者契約法による被害には該当しないので
どこからも救済の手が及ばない。
明と陽二の父親もそれぞれRD社に騙されて無一文になってしまったのである。

乱入した暴徒は一気に7階にあるRD社の事務所へ急いだ、しかしそこは書類こそもぬけの殻だったが
まだ数人が書類を片付けていた。そこへ二人が襲いかかった。
明が木刀で背中をたたくと、いかにも背が低くメガネをかけた醜い男が倒れた。
するとそばにきた老人が叫んだ。
「お若いの、大手柄じゃ!そいつがRDの親玉、篠田じゃ!」
これを聞いた二人はこの男を滅多打ちにしたが、男は這いつくばった後素早い速度で逃げた。

「あの時被害者が名乗り出なかったうえ、高校生ということもあって無罪放免になったんだよな」
「1か月の停学は食らったけどね、ところで明、なぜここに」

実は明はパレスサイドビルの地下にあるレストラン「ニュートーキョー」で数少ない
同志を集めて秘密会議を計画していたのだ。
「君たちに集まってもらったのはほかでもない、みんな!ニューヨークへ行きたいか!」
「明、何を血迷っているんだ」
「ここはかつてのRDの日本支社、そしてRDの世界本部はニューヨークの北50キロにある
ニューヨーク州プレザントビル、最後にはここに突入する!」
「まさか、明、すべて計算済みでは?
明はにやりと笑った。

       

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