Neetel Inside 文芸新都
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 オリアーがクレイモアの大剣を避ける。その度に地が、城が揺れた。
 オリアーは反撃の糸口が見出せずにいた。火力が段違いなのである。オリアーの力は決して弱くない。むしろ、パーティ内では一番の力の持ち主だ。だが、そのオリアーの力も、このクレイモアの前では赤子同然だった。
「そらぁッ」
 大剣。クレイモアが横に流す。オリアーが身を屈めた。その瞬間、クレイモアが手首を返した。クレイモアが目を見開き、歯を食い縛る。殺気。
「隼潰しッ」
 下段。オリアーが飛んで避ける。次の瞬間、鋼鉄の塊がオリアーの全身を砕いた。同時に大きく吹き飛ぶ。大剣。刃の腹だった。それがオリアーの全身を粉砕した。声が出なかった。目から火花が飛ぶような、そんな刹那的な衝撃が全身を貫いただけだ。
「が、がはっ……」
 血。口の端から漏れる。一撃。一撃でこれほどのダメージを。オリアーは顔を起こすのが精一杯だった。
「僕の剣が、全く通じないなんて」
 剣術。クレイモアの前では、この言葉が嫌に虚(むな)しかった。力でねじ伏せられるのだ。圧倒的な力。
「つまんねぇ。つまんねぇぞ、オイ。そんなに脆いのかよ」
 クレイモアが、地に伏しているオリアーと地面の間に大剣を滑り込ませた。
「これじゃ、もうタダのサンドバッグだな。ゴミ虫」
 大剣の腹にオリアーを乗せ、それを片手で持ち上げる。オリアーが歯を食い縛る。負けるものか。目でそう言った。
「大した闘志だ。命乞いでもすんのかと思ったぜ」
 クレイモアが大剣を軽く上に跳ね上げた。オリアーの身体が宙に浮く。
「もっと俺を楽しませろッ」
 大剣。振りかぶった。横に薙ぐ。オリアーに向かって、大剣を勢いよく叩きつける。鈍いグシャッという音と共に、オリアーが吹き飛んだ。壁に叩きつけられる。グニャリと骨無しのようにオリアーが地に伏した。
 オリアーの意識が薄れていく。全身の感覚が消えていく。死ぬ。死ぬのか。こんな所で。その時、オリアーの神器が光り出した。声。神器の声だ。それがオリアーの頭の中で響く。
「選ばれし者よ。我の力を、真の力を解放するのだ」
「真の、力」
 オリアーが頭の中で返事をする。
「そうだ。王剣・エクスカリバーと神剣・フェニックスソード。二つのシリウスの剣。これらは元々、一つの剣だった。そして、今こそ再び一つに戻る時」
 瞬間、エクスカリバーも光を放ち始めた。
「剣聖シリウスの力を受け継ぎし者よ。時は来た。今こそ、シリウスの全ての力を継承せよ」
 声が消える。オリアーが目を開いた。指が動く。神器を握り締める。身体は地に伏したままだ。
「……ほう」
 クレイモアがニヤリと笑った。
「まだ戦う気か。ゴミ虫」
「……僕は」
 上半身を起こす。全身が震えていた。右脚にグッと力を入れる。立ち上がった。肩で息をしている。だが。
「目が死んでいない。目障りな」
 クレイモアが大剣を構えた。ゆっくりとオリアーに近づいていく。
「僕は、まだ戦える」
 エクスカリバーを鞘から抜く。右手に神剣。左手に王剣。二つの剣が、激しく光を放ち始めた。
「何だ?」
 クレイモアが警戒する。
「シリウスさん、僕に力を貸して下さい。魔族を倒す力を」
 その瞬間、二つの剣がオリアーの手から離れた。宙に浮く。光。眩い光だ。二つの剣が、ゆっくりと交わって行く。二つの剣が、一つになって行く。
「そ、その剣は……!」
 クレイモアがたじろいだ。オリアーの眼前に輝く一本の剣。黄金の柄。蒼白の刀身。
「神王剣・シリウス」
 オリアーが、その剣の束に手を掛けた。

       

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