Neetel Inside 文芸新都
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 セシルの魔法剣とディーレの鞭が飛び交っていた。両者が火花を散らす。
「思ったよりやるわね。私の鞭捌きに、ここまで付いてこれるなんて」
 三本の鞭が乱舞する。セシルはその鞭の動きを目で追いつつ、攻撃に転じていた。
「でも、こういうのはどうかしらッ」
 ディーレが右手を引いた。セシルが警戒する。
「螺旋打ちッ」
 三本の鞭がしなった。螺旋。セシルの身体を貫く。声が出なかった。吹き飛ぶ。だが、身体は地につかない。
「まだよ? そう簡単に終わらせるもんですか」
 ディーレのグリンガムの鞭の一本が、セシルの右足に絡みついていたのだ。そのまま、グイッと鞭を引っ張る。セシルが宙吊りとなった。螺旋打ちのダメージが身体を貫いている。
「良いザマね。このまま、玩具のようにくびり殺してあげる。せいぜい、良い声で鳴きなさいッ」
 残りの二本の鞭をセシルに叩きつける。その度に、悲鳴が上がった。痛みが激烈なのだ。
「んん~~~~良い声ね。たまんないわ」
 さらに鞭を叩きつける。皮膚が破け、血が飛散した。
「ほらほら、反撃したらどうなの?」
 ディーレが声をあげて笑う。セシルが歯を食い縛った。魔法剣で鞭の切断を試みる。だが、刃が通らなかった。逆に魔法剣が弾き返されてしまう。
「バカね、無駄に決まってんでしょ。ねぇ、生きて償うんでしょ? 早く償ってみなさいよ」
 鞭を叩きつける。すでにセシルの全身はボロボロだった。しかし、闘志は萎えていない。セシルがディーレを強く睨みつける。
「なぁに、その反抗的な目は。気に食わないわね」
 ディーレがセシルの身体を地に叩きつける。吐血。ダメージが大きすぎる。これでは満足に動けない。
「フフフ。もう一人のガキは戦闘なんて出来ないみたいね。震えて見てるだけだわ」
 エミリアは身体を震わせながら、両手を握り合わせていた。祈るようにセシルを見つめる。
「まだよ、音速の剣士ちゃん。声が出なくなるまで、いたぶってあげる」
 鞭を叩きつける。
 エミリアは目の前の光景に恐怖していた。壮絶すぎる。四柱神の力。容赦が無い。しかし、これは当たり前の事だった。戦う者からしてみれば、ごく普通の事なのだ。強い者が勝ち、弱い者は負ける。ましてや、魔族と人間の戦いだ。生きるか死ぬか。二つに一つの世界なのだ。
 しかし、エミリアは王族だった。戦いの経験が圧倒的に少ないのだ。これまでに魔族を倒したり、退けたりというのは見てきていた。だが、ここまで完膚無きまでに叩きのめされるのを、直接見るのは初めての事だ。
「そこのお嬢ちゃん? 音速の剣士が終わったら、次はあなただから」
 セシルに鞭を叩きつけながら、ディーレが言った。その表情はまさに快楽そのものだ。
 エミリアが唇を噛み締める。覚悟してきたはず。覚悟して、魔界に来たはず。エミリアは自分の心を叱咤した。ここで震えるために、魔界に来た訳ではない。戦う。魔族と。でなければ、何のために魔界に来たのだ。エミリアはそう思った。
 エミリアの目に決意が宿る。
「セシルさんを、セシルさんを離して!」
 エミリアが両手を突き出した。その両手から、眩い光が放たれる。

       

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