Neetel Inside 文芸新都
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 グラファが両手を開いた。魔力が沸き上がる。陽炎の如く、グラファの身体が揺らめていく。
「若僧、双魔法というものを知っておるか?」
 グラファの問い。だが、メイジは答えなかった。グラファの目を睨みつけたままだ。
「……上等級呪文は基本的に一度に一回しか使えん。それは人間も魔族も同じじゃ。じゃがの」
 グラファが両手を突き出す。
「それはクズの人間や下級魔族の話じゃ。ワシは違う。ワシは、上等級呪文を一度に二回使える。それが……」
 右手にイオナズン。左手にマヒャド。二つの上等級呪文。メイジが目を見開く。そんなバカな。
「双魔法じゃぁッ」
 イオナズンとマヒャド。同時に放たれた。どうする。どちらを相殺する。メイジが考えた。いや、違う。相殺は狙わない。
「マジックバリアッ」
 呪文防壁。咄嗟に使った。大爆発と氷柱乱舞。マジックバリアを突き破る。
「ちぃ……っ」
 深いダメージ。だが、メイジの判断は間違っていなかった。片方の呪文は相殺出来ても、もう片方の呪文はモロに受けてしまうのだ。それならば、最初からマジックバリアで防御に徹した方が被害は少ない。だが、上等級呪文二発分のダメージは強烈だった。
「ホッホッホ。どうした、若僧。反撃してこんかい」
 右手にベギラゴン。左手にメラゾーマ。また来る。どうすれば良い。メイジが考える。マジックバリアではいずれ限界が来る。すでにダメージも深い。だが、上等級呪文が一度に二回飛んでくるのだ。これに対する有効手段など存在するのか。
「ほれっ」
 放たれる。火炎と火球。再びマジックバリア。だが突き破られる。メイジが吹き飛んだ。身体からは黒煙があがっている。
「まだ、だ……!」
 立ち上がる。杖にすがりながら、立ち上がる。
「つまらんのう。ワシが負けるんじゃなかったのか? ん?」
 右手にバギクロス。左手にもバギクロス。また来る。メイジはもう何発も耐えられない。
「訂正せい、若僧。負けるのはワシではなく、お前じゃとな」
 グラファがバギクロスを放った。二つの真空の竜巻が吹き荒れる。メイジの目が霞む。しかし、考えた。何か手は無いのか。メイジはふと、神器の言葉を思い出した。
「……自身の力を一刻も早く開花させなければならない。神器はこう言った……」
 まだ自分は力を眠らせているのか。だが、その力とは何なのだ。真空の竜巻。メイジの全身を切り刻む。きりもみ状態で上空へ吹き飛ばされた。もうダメか。その時だった。双魔法。魔力。力の開花。神器。これらのワードが、メイジの頭の中で繋ぎ合わされた。メイジが目を見開く。
「まだだ、まだ俺は終わらない……!」
 メイジが受け身を取る。ズザザ、という音と共に着地した。そして、神器を構える。魔力を溜めつつ、メイジが考えを整理する。
 双魔法。それは『上等級呪文を一度に二回放つ』という特技だ。これはグラファの特技であり、メイジは使えない。そして、これからも使えるようにはならないだろう。何故なら、人間が上等級呪文を放つには両手が必要だからだ。双魔法は、片手で上等級呪文が撃てる魔族専用の能力と言って良い。
 続いて、魔力という部分に観点を置く。グラファとメイジの魔力はほぼ互角だ。メラゾーマを相殺した。神器の力で魔力が上がっている、という点はあるが、結果としてメイジとグラファの魔力はほぼ互角だった。だが、それは一発の呪文の話だ。二発の呪文が同時に飛んでくる双魔法が相手の場合、メイジの魔力はグラファに劣っていると言えた。
 つまり、現状をひっくり返すには、メイジはグラファの魔力を超えなければならないのだ。言い換えれば、双魔法を超える魔力、もしくは双魔法に代わる何かを会得しなければならないという事だ。
 次に力の開花と神器について考える。力の開花。それは、おそらく自分の力の話ではない。メイジはそう思った。何故なら、自分は上等級呪文が使える。すなわち、それは魔法使いとしての完成を意味しているのだ。となれば、力の開花とは神器の事のはず。問題なのは開花させる方法だ。
「何を考えておる? まぁ、どの道、次の一撃で終わらせてやろう。火葬じゃ。燃えて死ぬが良い」
 グラファが口元を緩めた。そして、両手を突き出す。右手にメラゾーマ。左手にもメラゾーマ。グラファはすでに勝利を確信している。
 力の開花。メイジが考える。神器には魔力を高める効果がある。魔力を高める。メイジがここで仮定を持ち出す。もし、神器に上等級呪文を『保存』させる事が出来たなら? そして、さらに両手で上等級呪文を作り出す。それも『保存』する。つまり、上等級呪文を神器に『二つ保存』するのだ。すると、どうなる。神器の中で、魔力が、呪文が進化するのではないのか。そしてそれは、双魔法を超えるはずだ。メイジはここまで考えた。
「やってみせる……!」
 メイジが両手に魔力を溜める。そして、溜めた魔力を神器に移す。正確な結果は見えない。だが、やる価値はある。メイジの心臓の鼓動が高鳴って行く。
「……なんじゃ?」
 グラファが目をこらした。さらにメイジが両手に魔力を溜める。そして、その魔力も神器に移した。上等級呪文二発分の魔力。神器の宝玉が、強烈な光を放ち始めた。グラファがハッとした。嫌な予感。グラファがそれを感じ取る。
「若僧が悪あがきを! 灰になれッ」
 グラファが叫んだ。二つのメラゾーマ。放たれる。メイジが目を見開いた。
「俺は、魔人レオンを超える」
 杖を前に突き出す。魔力が解放される。新呪文。
「メラガイアーッ!」
 瞬間、烈風と共に紅蓮の熱球がほとばしった。

       

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