Neetel Inside 文芸新都
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 アレンの剣。父の形見、志。ヒウロが構える。刹那、ビエルと激突した。衝撃波が巻き起こる。
「は、速い」
 オリアーが言った。確かに速い。だが、どうしようもないレベルではない。ヒウロはそう思った。むしろ、この攻撃力の方が厄介だ。僅かだが、ビエルの力の方が強い。
「ほう、その剣は」
 ダールが、ヒウロの剣を見てニヤリと笑った。
「アレンの剣ですねぇ。そうですか、アレンを殺しましたか」
 ゆっくりと、粘りつくかのような口調だった。ヒウロの心がザワつく。
「バカがッ」
 ビエルが剣ごとヒウロを殴り飛ばした。一気に後ろの壁まで押し込まれる。地に足を踏み込み、何とか耐えきった。剣を持つ手が僅かに痺れている。強い。さすがに側近だ。
「ちっ。勇者アレクの子孫だっつぅから、少しは期待したが……大したことねぇなぁ。これじゃ、他の奴も」
 ビエルが周囲をギロリと見渡した。まるで獲物を狩るような目だ。
「期待できそうにねぇぜ!」
 両腕。左右に開いた。右にオリアー。左にメイジ、セシル、エミリアだ。次の瞬間。
「イオナズンッ」
 爆発系上等級呪文。同時に二発。双魔法。オリアーが目を見開く。メイジが舌打ちする。
「このっ」
 オリアーが神王剣・シリウスを地から天へと振り上げた。王剣・エクスカリバーの力を継承している。イオナズンの魔力を弾いた。天井で大爆発が巻き起こる。
「セシル、エミリア、後ろに下がれッ」
 メイジが両手を突き出した。
「イオナズンッ」
 相殺。寸での所だった。爆風が吹き荒れる。ビエルの甲高い笑い声が、風の向こうでこだましていた。
 今までの敵とは格が違う。メイジはそう思った。四柱神の一人、グラファの双魔法――それをビエルは当たり前のようにやってのけた。いや、それだけではない。ビエルはまだ力の片鱗すら見せていないだろう。これから、どうなる。
「クク。双魔法はグラファの専売特許ではありませんよ、魔人レオンの後継者さん」
 ダールが口を開く。爆発の煙幕で姿は見えない。
「四柱神如きに出来る特技が、我々側近にできないはずがないでしょう」
 煙幕が晴れた。ダールは、腕を組んでいた。観戦気分なのか。
「ビエル。このまま、あなた一人でやっても良いですが、それでは私の仕事が無くなります」
「あぁ? だったら寝てろ、ダール。こんなザコども、俺様一人で十分だ」
「いえ、私も楽しみたいのですよ。懐かしい顔もありますしねぇ」
 ダールが二ヤリと笑いつつ、セシルに目を向けた。セシルに一瞬だけ、怯えが走る。
「お久しぶりですね、死の音速の剣士さん」
「だ、黙りなさい……! 今の私なら――」
「ダール!」
 セシルの言葉を遮るかのように、オリアーが割って入った。
「僕が相手です。二度と、セシルさんには手を出させない」
「ほう。これはこれは。音速の剣士に騎士(ナイト)が付いていたとはね」
 ダールが腕組みを解いた。
「ビエル、良いですか?」
「ちっ。勝手にしろ」
「どうも。……おや。それともう一人、私の命を欲している人が居るようで」
 ダールがオリアーの後ろに目をやった。ヒウロだ。闘志で燃え盛っている。
「父さんの仇だ。お前は絶対に俺が倒す」
「何を勘違いされているのやら。あなたが殺したんですよ。この親殺しが」
 ヒウロがキッとダールを睨みつけた。
「おいおい、勇者アレクの子孫も持ってくのかよ。それじゃ、俺の相手はダールの中古と残りカス」
 瞬間、巨大な火球がビエルの眼前を掠めた。メイジのメラゾーマだ。
「誰が残りカスだ? 口を慎めよ」
「……良い度胸だ、ゴミが」
 ダールと対するヒウロとオリアー。ビエルと対するメイジ、セシル、エミリア。正義の使徒達と魔王の側近。両者の戦いが、今始まる。

       

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