Neetel Inside 文芸新都
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 風が渦巻いていた。ビエルが舌を出し、ニヤニヤと笑っている。
「セシル、行くタイミングはお前に任せる」
 メイジが言った。本来なら、自分が呪文でセシルの背中を押すべきだが、それは出来そうになかった。ビエルの異常な殺気が、ビリビリと全身を刺激しているのだ。それも、その殺気は自分だけに向けられている。
 ビエルは、自分だけを狙っている。メイジはそう思った。そして、セシルとエミリアはビエルの眼中に無い。これはあくまで予想になるが、もしこれが当たっていれば、逆に付け込む隙になる。自分がどこまで目立てるか。これもビエルとの戦いでは重要なポイントになりそうだった。
 風が止んだ。その時だった。セシルが駆けた。魔法剣を構える。
「ダールの中古が。俺様とまともにやり合えるとでも思ってんのか?」
 ビエルが構える。徒手空拳だ。セシルが歯を食い縛った。斬りかかる。
「はん、こんなもんかよ」
 片手で受け止められていた。だが、セシルの目は萎えない。
「ダールは左手の小指で私の魔法剣を受け止めた。あなた、自分で言うより弱いんじゃないの?」
 瞬間、ビエルの目が血走った。
「このクソアマがッ」
 ビエルが魔法剣を押し込もうとする。瞬間、魔法剣が消え去った。セシルが自分の意志で消したのだ。魔法剣は使い手の意志で、作成・消去が出来る。ビエルの態勢が前のめりになった。再び、セシルが魔法剣を作り出し、一閃。ビエルの血が宙を舞った。
 セシルにはオリアーのような力強さは無い。その代わり、技がある。セシルは自分の持ち味を最大限に引き出していた。このセシルに加え、ビエルは魔法剣士との戦闘経験が皆無だった。すなわち、セシルが初の対魔法剣士、というわけである。
 メイジはしっかりとそれを観察し、情報として取り込んでいた。やはりセシルが主軸となる。だが、相手はビエルだ。すぐにセシルの速さ、戦い方に慣れてくるだろう。そこはエミリアの支援呪文にかかっている。素早さ増強のピオリム。攻撃力倍増のバイキルト。この二点が鍵を握ってくるはずだ。特に前者のピオリムは重ね掛けが出来る。
「エミリア、ビエルがセシルの動きに追い付き始めたら、ピオリムをかけてやってくれ」
「は、はい」
 エミリアの声がうわずっていた。緊張しているのか。
「……あまり気負うなよ。大丈夫だ。俺が勝利へと導く」
 この言葉に、エミリアの耳が赤くなっていた。
「メイジさん、こういう時に言うのも変ですけど、いつも冷静ですね」
「魔法使いの性分だ」
 むしろ、後衛職の特徴と言っても良い。前衛職と違い、後衛職は敵味方の観察が可能なのだ。敵味方の動きを観察し、どうやって勝利へと繋げるか。このプロセスを組み立てるのも、後衛職の仕事の一つだった。
 セシルが懸命に戦っていた。ビエルの反撃を皮一枚で避ける。心は研ぎ澄まされていた。ビエルの動きが見える。セシルは攻撃よりも、回避に専念していた。攻撃はメイジに任せて良い。セシルはそう割り切ったのだ。ビエルの大振り。避ける。隙。
 その瞬間、メイジが目を見開いた。
「メラガイアーッ」
 烈風。紅蓮の熱球が空を切る。ビエルが身体を反らしていた。
「なんだぁ?」
 ビエルが目をメイジに向ける。メラガイアー。初見だった。当たればダメージは確実か。ビエルはそう思った。
「メラゾーマの強化版って所か」
「……俺は魔人レオンを超えた」
「大仰な事を言いやがるな」
 セシルの魔法剣。ビエルが避ける。
「言い忘れてたが、俺は肉弾戦よりも呪文の方が得意でなぁ」
 ビエルが右手を突き出す。狙いはセシルだ。
「ハエが。鬱陶しいんだよ」
 次の瞬間、大爆発。セシルが吹き飛ぶ。地面に投げ出され、その全身からは黒煙が上がっていた。メイジが目を見開いた。イオナズンか。だが、あのイオナズンは。
「俺のイオグランデ並の威力……!」
「セシルさん!」
 エミリアが叫んだ。
「死んだんじゃねぇかぁ? 久々に本気で撃っちまったからよ。ヒャハハハ」
 どうする。メイジの頬を一筋の汗が伝った。

       

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