Neetel Inside 文芸新都
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 想いが、ヒウロの中で渦巻いていた。父の仇。目の前の巨悪。今ここで、ダールと雌雄を決する。
 神器の力。それが解放されつつある。ヒウロはそう思った。ダールの閃光烈火拳をかわしきった。あれは自分の力ではなく、神器の力だったはずだ。どんな力なのか、その正体は分からない。だが、とてつもない力だ。
 父と母が、見守ってくれている。ヒウロは神器の力の発動を、そう捉えていた。閃光烈火拳をまともに貰えば、自分は無事には済まされなかった。何としてでも、直撃は避けなければならなかった。その状況の中で、神器は力を発動したのだ。神器の中に、父と母が居る。そう考えると、勇気が倍加されていくのが自分でも分かった。
「これほどとはな。正直、私の予想を遥かに上回る強さだ」
 ヒウロのギガソードと、ダールの拳が幾度となくぶつかり合う。
「お前たち魔族は、人間をみくびりすぎだ!」
「そのセリフ、アレンも言っていた。私は人間など、取るに足らん存在だと思っていた」
 ダールの爆裂拳。全てを避け切る。反撃。ギガソードの隼斬り。ダールがいなした。
「その認識は、どうやら間違いだったようだ。その証拠に、お前はこの私と渡り合っている!」
 ダールが右手を引いた。来る。ヒウロはそう思った。いかずちの刃。雷光の如きの突き。
「雷光一閃突きッ」
 ヒウロが目を見開く。勇気をダールに向けて放った。かわしてみせる。いや、カウンターを狙う。ヒウロがそう決意した瞬間、視界が白く染まった。ダールの姿以外が、ヒウロの視界から消える。まただ。『あの』現象。
 ダールの拳が、ハッキリと見えた。スローモーションで突き出される、ダールの拳。閃光烈火拳をかわした時と、同じ現象だ。ヒウロが突き出された拳の下を掻い潜る。
「選ばれし者よ、運命をその手に掴め」
 父の声。
 ヒウロが吼えた。声にはならなかった。ギガソードを握り締める。呼吸を一度だけ挟んだ。息を吸い込む。同時に、剣を地から天へと振り上げた。
 視界が戻った。
「うぐぁっ!?」
 ダールの両腕が斬り飛ばされていた。傷口に雷撃が纏わりついている。勝機。
「オリアーッ!」
 ヒウロが叫ぶ前に、すでにオリアーは構えていた。剣を逆手に持ち、前身に重心を乗せている。神王剣の刃が、黄金色に輝いていく。究極の必殺剣。ダールの背後からだ。挟み撃ち。
「ギガスラッシュッ」
 オリアーのギガスラッシュ。ダールの股から、袈裟の軌跡を描いて光が走る。ヒウロが目を見開いた。ギガソードに勇気を込める。最強無比の必殺技。
「ギガブレイクッ」
 ダールの左肩から股に向けて、ヒウロは剣を振り下ろした。稲妻・闘気・剣・勇気。四つの力が解放される。
 光。究極の必殺剣と最強無比の必殺技が、ダールの胸で交わった。二つの技は一つとなり、奥義へと進化を遂げる。
「ギガクロスブレイクッ」
 ×の字に、斬り裂く。光の花が咲いた。
「貴様、覚醒」
 ダールの呟き。刹那、光が溢れた。断末魔。視界が光で遮られていく。その光の中で、オリアーが剣を鞘に納めた。勝利を確信したのだ。
「……勝った」
 ヒウロもそれだけ言って、剣を鞘に収めた。視界が元に戻った時、ダールの死体はすでに光の粒子となっていた。
「父さん」
 宙に舞い上がる粒子を見つめながら、ヒウロは静かに呟いていた。

       

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