Neetel Inside 文芸新都
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 五人の表情は変わらなかった。まぁ、そんなものだろう。ディスカルはそう思った。運命を信じるか。我ながら、ふざけた台詞だ。だが、自分は信じる。
「来い」
 言って、手招きした。五人の目に闘志が宿る。戦闘開始だ。この時、先代の魔王は何を思ったのか。絶対に勝てると踏んでいたのか。それとも、もう負けると絶望していたのか。
 戦士の剣が閃く。剣聖シリウスの名が頭を過った。剣を片手でいなし、呪文を放つ。だが、呪文は天井に跳ね返された。
「対魔法剣か」
 シリウスの剣には呪文を弾く力があったという。この戦士は、その力をしっかりと受け継いでいる。その刹那、呪文。後ろの魔法使いからだ。空いたもう片方の手で弾き返す。さらに勇者と魔法剣士が飛び込んできた。
 強いな。ディスカルは心の中でそう呟いた。息が合っている。それぞれがそれぞれの役割をこなし、上手く繋げている。魔族にはない能力だ。魔族は協力というものを知らない。単に徒党を組み、己が功を競うだけだ。四柱神はそれが原因で負けた。いや、戦力を削る事すら出来なかった。この目の前の五人のように、力を合わせて戦っていれば、少なくとも二人は始末できたはずだ。
 だが、もう終わった話だった。ダールもビエルも、自分の力を過信した。だから、一人で数人を相手にした。それだけの力を持っていないのにも関わらずだ。それは先代の魔王と同じで、頭の悪さを証明しているのと同じ事だ。
 だが、自分は違う。独りで五人の相手ができる。それだけの力と、能力を持っている。これは自惚れではない。事実だ。素の力でも、どの魔族よりも強い。それに加えて、自分にはある能力がある。いや、能力を得たと言う方が正しい。
 運命。この言葉が、全てを握っている。
 そろそろ、反撃してみるか。攻撃をいなしながら、そう思い始めた頃だった。
「隼斬りッ」
 左右。勇者と魔法剣士の剣が光った。両腕でそれぞれを受け止める。刹那、殺気。
「大地斬ッ」
 真正面。
「メラガイアーッ」
 さらに呪文。少々、手に余るな。そう思った。仕方がない。メラガイアーを戦士へ。心の中でそう呟いた。
「うぐっ!?」
 瞬間、戦士が火だるまとなって吹き飛ばされた。身体から黒煙が巻き上がっている。
「なっ……」
 魔法使いが呻いていた。
「なんで、俺の呪文がオリアーに……!?」
 受け止めていた勇者と魔法剣士の剣を、同時に弾き返した。王女が戦士の傍に駆け寄り、回復呪文を唱え始めている。
「味方に撃ったらダメだろう? お前は魔法使い、失格だな」
「何をしたっ!」
 魔法使いが叫んだ。
「ほう?」
「ヒウロ、セシル、気をつけろ!」
 なるほど。あの魔法使いがパーティの頭脳か。
 戦士が回復を終え、立ち上がった。剣を構えている。
「……僕が、もう一度仕掛けます……!」
 また駆けてきた。剣を振り上げている。
「もう一度、お前達に問おう」
 戦士の剣を魔法剣士に。心の中で呟いた。刹那、悲鳴。
「そ、そんなッ!?」
 戦士が震えている。魔法剣士を斬っていた。返り血を浴びている。
「運命を信じるか?」
 言って、ニヤリと笑った。

       

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