Neetel Inside 文芸新都
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 一方、魔界では――
「以上が、報告となります」
 石造りの大広間。石柱が等間隔で配され、邪気が辺り一面に満ちている。そこにファネルは跪いていた。ファネルが跪くその先には玉座。人間の王が座るものと同じぐらいの大きさだ。左右に女の魔族が控えており、玉座から入口まで赤い絨毯が道を作っている。そこに座るは、最強の魔族にして王である、ディスカルだ。細身の体格、ブロンドの長髪、赤い瞳、少し色白だが人間と同じ肌色の身体を、絹のような白いローブで包んでいる。
「で?」
 ディスカルが片方の女魔族の顔に触れながら、ダルそうに呟く。
「……っ」
 ファネルは跪き、顔を下に向けたまま身動き一つ取れないでいた。心臓の鼓動が速くなっていく。冷や汗が全身から噴き出してくる。
「そのライデインを使った人間はどうした? ん?」
「申し訳ありません。ひとまずは報告が先かと思」
「逃げ帰ってきたのか」
 ディスカルが鼻で笑った。依然、女魔族の顔を撫でている。
「申し訳ありません……っ」
 ファネルの全身が恐怖で震えだした。汗が頬を伝い、地面にポタポタと落ちる。跪く足に力が入らない。感覚が消えていく。
「そう怖がるなよ、ファネル。私は寛大な王だ。知っているだろう?」
 動悸。ファネルは生きた心地がしていない。
「私は感謝しているよ。お前が無様に逃げ帰って来てくれたおかげで、勇者の子孫が存在する事を知る事が出来たのだからな」
 ディスカルが鼻で笑った。
「もしお前が何の情報も無しに逃げ帰って来ていれば……」
 不意にディスカルが指を鳴らした。瞬間、顔を撫でていない方の女魔族の身体が爆発した。肉片が辺りに飛び散る。その一部がディスカルの衣服に散ってしまった。その様を見たもう片方の女魔族の顔は、恐怖でひきつっている。
「チッ。汚れてしまったか。おい、綺麗にしろ」
 顔を撫でている女魔族に命令した。
「え、あ、あ」
「遅いよ」
 指を鳴らす。その女魔族の身体も爆発した。ディスカルが鼻で笑う。沈黙。いや、戦慄と言った方が正しい。
「……ファネルよ、次はないぞ?」
「しょ、承知しております」
 ファネルが逃げるように魔王の間から退出する。
「勇者アレクの子孫か。フン」
 ディスカルは頬杖をつき、ファネルの背中を見つめていた。

       

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