Neetel Inside 文芸新都
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 炎が燃え盛っている。火災。風に煽られ、火勢が増していた。いや、それだけではない。ファネルと四人の人間の闘気が火を勢いに乗せている。そう錯覚してしまう程、場は緊迫していた。
「獣の森のような不覚は取らん。今ここで、貴様ら全員を殺す。絶対に逃がさん」
 ファネルのローブが風に煽られている。いや、闘気で揺れているのか。
「オリアー」
 メイジがオリアーに目配せした。セシルをフォローしてやれ、目でそう言った。セシルが肩で息をしている事にメイジは気付いていたのだ。
 セシルは先の連続戦闘に加え、エアロブレイドを二発撃っていた。魔法剣士は戦闘能力が高い代わりに、戦闘時間が短いという弱点があった。魔力を常に消費しての戦いなのだ。大技である魔法剣技も魔力を多大に消費してしまう。いざという時のために実剣を携帯しているが、そちらに切り替えると戦闘能力は大幅に落ちてしまう。魔力の剣とは攻撃力が違いすぎるのだ。ましてやセシルは女だ。力が重要とされる実剣での戦闘能力は期待できなかった。
「私はまだ戦える」
 セシルが空気に勘付いたのか、隣のオリアーに言った。
「えぇ。分かっています。どの道、守ります。僕が」
「……勝手にしたら」
 緊迫。ファネルか、ヒウロ達か。互いに出方を窺っている。現状、ヒウロ達が有利だった。綺麗にファネルを囲んでいるのだ。だが、隙がない。
「私の狙いは、貴様だけだ」
 ファネル。動いた。速い。狙いはヒウロだ。右手を振りかざしている。刃。
「あの時の俺と思うなッ」
 ファネルの右腕を斬り払う。稲妻の剣。火花と電撃が乱舞する。本気のファネルだ。獣の森の時とは比べ物にならない。スピードも力強さも気迫も。全ての点で凌駕している。だが。
「見える」
 受けられる。自分も強くなっている。ヒウロはそう感じていた。
「ならば、これはどうだ」
 殺気。この殺気、覚えがある。獣の森でズタズタに斬り刻まれた、あの技だ。
「真空斬りッ」
 瞬間、風が鳴いた。だが、動きが見えた。皮膚一枚の所で真空の刃をかわしきり、稲妻の剣で綺麗に一撃を捌き切った。ファネルが目を見開いている。驚いているのだ。カスリもしなかった。真空斬りは自分の持ちうる技の中でも自信のある部類なのだ。それを完全に避けた。見切られている。
「ちぃっ」
 思わず、距離を取った。瞬間、灼熱の炎。足元から巻き起こる。ベギラマ。メイジだ。身体をひねった。かわす。左手を突き出した。
「マヒャドッ」
 氷柱。メイジがすかさず、マジックバリアを唱えた。マヒャドの威力が殺される。
「強くなった、貴様らは本当に強くなった!」
 背後より殺気。振り返る。ヒウロ。さらにサイドからオリアー。かつての獣の森で、ファネルはこの二人の剣を捌き切った。ピオリム・バイキルトで強化もされていた。それを完全に捌き切っていた。だが、今は。
「おのれっ」
 押されている。動きが速い。一撃も重い。
「セシルさん、メイジさんの方へ走ってくださいッ」
 オリアーがエクスカリバーを振りながら言う。魔法剣の光が弱い。魔力が切れかかっているのだ。メイジならそれを何とか出来る。魔力回復呪文のマホイミがあるのだ。この近接戦にセシルが加われば、ファネルは完全に瓦解する。現時点で後手に回っているのだ。勝てる。セシルが加われば、一気に勝てる。
 セシルが走った。メイジ。あの魔法使いの事だ。魔力が切れる寸前だ。このままでは戦闘に加われない。あの魔法使いなら、何とかしてくれる。そう思いながら、セシルはメイジの元へ駆けた。
「手を出せ」
「何をするの?」
「いいから、早く出せ」
 口調が強い。いくらか腹が立ったが、セシルは右手を出した。握られた。
「マホイミ」
 瞬間、切れかかっている魔力が大きく回復したのが分かった。マホイミ。魔力回復呪文。しかし、この回復量は常軌を逸している。
「あなた、一体何者なの?」
「……今はファネルだ。お前が行けば、形勢は崩れる。だが、無理はするな」
「大きなお世話よ」
 生意気な女だ。気も強いだろう。メイジはこういう女はあまり好きではない。
「行け」
 セシルが駆ける。手に魔法剣。エメラルド色の光が強い。そのままファネルの背後から斬りかかった。

       

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