Neetel Inside 文芸新都
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 オリアーがセシルを呼んできた。事情を説明する。セシルもヒウロ達と同じように、神器に選ばれし者かもしれないのだ。セシルは初めは半信半疑だったようだが、実際に三人が本に手をかざしてみせると、否応なしに納得したようだ。
「私もこの本に手をかざせば良いのね?」
「えぇ、お願いします」
 セシルが手をかざす。三人の期待が高まった。しかし、何も起こらない。
「何も起こらないわ」
「そんな。もう一度、やってみてください」
 手をかざす。だが、何も起こらない。
「……どうやら、私は選ばれし者ではないようね」
 そういう物だ。セシルはそう思った。セシルは特に落胆も気落ちもしていなかった。現実とは得てしてこういう物なのだ。三人は選ばれし者。自分はそうじゃない。ただ、それだけの事だ。それに、神器に選ばれようと選ばれまいと、もう自分の道を変えようとは思っていなかった。
 だが、ヒウロ達はそうではなかった。期待していたのだ。しかし、セシルではなかった。なら、一体誰が選ばれし者なのか。ヒウロ達はそう思った。十中八九、セシルだと思っていたのだ。
「……俺達に出来る事をやろう」
 ヒウロが言った。考えて分かる事でもない。セシルは選ばれし者ではなかった。この事実だけを今は受け止めれば良い。ヒウロは単純にそう理解した。メイジなどは眉間に皺を寄せて、まだ考え続けている。
「四つの神器の内、三つは手に入れる事が出来るかもしれない。なら、まずはこの三つから手に入れよう」
 オリアーが頷く。
「……あぁ、そうだな」
 メイジが言った。
「だが、ヒウロ。問題は、その神器を手に入れる方法だ。封印されている場所には一人で行く必要がある」
 その通りだった。本によると、資格ある者ただ一人で、神器が封印されている場所に出向かなければならないのだ。つまり、三人が別行動となる。やり方としては、あらかじめ合流地点を決めておき、三人が同時に出発する。神器を手に入れ次第、それぞれが合流地点に戻ってくる、というのが最も効率的だった。魔族達はこうしている間にも力を蓄えている可能性が高いのだ。ヒウロ達としては、あまり時間をかけたくはない。だが、ルミナスは一度、魔族の襲撃を受けていた。自分達がルミナスを去って、再び魔族に襲撃された場合、どうなるのか。
「私がルミナスを守るわ」
 セシル。三人の考えを読み取っていた。
「一人ずつ、順番に神器を手に入れるのは時間が掛かり過ぎるでしょ。やはり、ここは三人同時に出発するべきよ」
「ですが、セシルさん一人で」
「オリアー、私の強さを認めてくれたんじゃないの? 私は音速の剣士よ」
 オリアーがうつむく。そういう問題ではない。
「……良いんじゃないか。俺は賛成だ」
 メイジが言った。オリアーが顔を上げ、メイジの目を見た。あえて、メイジは目を合わせない。
「俺達には時間がない。魔族と俺達の差は、現時点で相当なものだ。時間が掛かれば掛かるほど、俺達の不利になる。ならば、最短で神器を手に入れるべきだ」
「ですが」
「神器を手に入れている間、ルミナスが襲撃されるとは決まっていない。それに、もし襲撃されてもセシルなら守れる。そうだろ?」
 命に代えても守り抜け。メイジは目でそう言った。それぐらいの覚悟は必要だ。魔族と戦うのだ。生半可な覚悟では困る。それはセシルも分かっているはずだ。
「もちろんよ」
「セシルさん」
「決まりだ。あとは俺達が神器を手に入れるだけだ。時間が惜しい。すぐにでも出発しよう。合流地点はルミナスで良いな?」
 ルミナス王国を中心に据えて、東西南北に神器の封印されている場所が分かれているのだ。ルミナスを合流地点にするのが最も理にかなっていた。
「セシル、俺達が戻ってくるまで、ルミナスを頼んだよ」
 ヒウロが言う。
「えぇ」
「……セシルさん、すぐに戻ってきます。無理はしないでください」
「あなたも心配性ね。あなたこそ、しくじったら許さないわよ」
 オリアーが頷く。
「さぁ、行って」
 こうして三人は、それぞれの神器の元へと出発した。果たして、無事に神器を手に入れる事が出来るのか。ルミナスは襲撃されずに済むのか。襲撃されたとして、セシルに守り抜く事が出来るのか。四人はそれぞれの不安を抱えていた。

       

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