Neetel Inside 文芸新都
表紙

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「隼斬りッ」
 稲妻の剣。閃光が二度きらめく。
「グギッ」
 うめき声を上げながら、魔物は倒れた。煙となって消えゆく死体を見つつ、ヒウロが剣を鞘に戻す。
 神器を手に入れるべく、ヒウロはルミナス王国を発っていた。しかし、その道のりは険しかった。とにかく、魔物が引っ切り無しに襲いかかってくるのである。まるで魔物が意図的に神器獲得の妨害をしているのではないか、と思わせる程の頻度だ。
「俺が手に入れようとする神器は、それ程の力を持っているのか」
 書物庫で見た本には、各神器の力や詳細などは一切、記されていなかった。確認できたのは神器の外観だけである。それすらもページがかすれてしまっており、細かな外観は確認できなかった。つまり、その多くが謎のままなのである。だが、神器が存在する事、必要である事は間違いなかった。かつての勇者アレクも神器と力を合わせたのだ。ヒウロ達も神器を手に入れるのは必須と言える。
 ヒウロは歩きながら、両親の事を考えていた。大陸最大の王国であるルミナスでも、両親の情報は全く掴めなかった。当然と言えば当然なのかもしれないが、期待していたのだ。
 自分の両親は、一体どういう人なんだろう。ヒウロはそう思った。自分は勇者アレクの血を引いている。ならば、父か母、どちらかがその血を受け継いでいるはずだ。だとすれば、自分と同じようにライデインが撃てるのだろうか? それとも、それを超える雷撃呪文が使えるのか? 剣の腕は? 色んな疑問が浮かんでくる。だが、未だにその答えは何一つとして見つかっていない。
「けど、旅を続けていれば、きっと」
 いつか知る事が出来る。ヒウロはそう考えた。
「そのためにも、強くならないとな」
 魔族が現れ、世界は破滅の危機に瀕していた。
 ルミナスが魔族に襲撃されたという話は、瞬く間に世界に知れ渡った。そして、魔族の、魔王の存在が初めて公になった。だが、人々は絶望しなかった。勇者アレクの子孫である、ヒウロに希望を見出したのだ。だからではないが、ヒウロも自身の責任の重さを強く感じていた。
「……ここが神器が封印されている場所か」
 地図と照らし合わせる。間違いないようだ。白いほこら。どこか、聖なる力を感じさせる。
「よくぞ来た。選ばれし者よ」
 声。ほこらの中からか。聞いた事がある声だ。ヒウロは不意にそう思った。
「神器を求めに来たのか?」
「そうです。魔族を倒すために」
 ほこらに向かって言う。
「ならば、試練に打ち勝つ事だ」
「もちろん、そのつもりで来ました」
「良い返事だ。選ばれし者よ、中に入るが良い」
 ほこらの石扉が、重い音を立てて開く。ヒウロが歩を進めた。
「……ここが」
 中は思っていたよりもずっと広い。白い石壁、吹き抜けとなっている天井。天井からは、眩いばかりの日光が降り注いでいる。そして、部屋の中央に一人の男が立っていた。背を見せている。
「よくぞ来た」
 振り返る。壮年の男だ。髭を鼻の下と顎に蓄えている。白銀の鎧に黒いマント、背に長剣。だが、何かを感じる。遠い昔に感じた事のある何か。
「ヒウロ」
 名を呼ばれた。ヒウロがハッとする。何故、自分の名前を知っている。そう思った。
「お前は、自分の運命を受け入れる事ができるか?」
 壮年の男がヒウロの目を見る。瞳が優しい。この優しさ。さっきから感じている何かの正体はこれだ。瞳から感じる優しさだ。ヒウロは自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じていた。
「まさか」
「……ヒウロ、私を超えてみせろ」

       

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