Neetel Inside 文芸新都
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 メイジとカリフ。凄まじい魔力の渦。二人の呪文がぶつかり合う。それはまさに壮絶だった。
 メイジは、この戦闘で上等級呪文を習得していた。いや、正しくは上等級呪文の使い方を知った。元々、メイジはそれを扱うに相応しい魔力は備えていたのだ。すなわち、上等級呪文を放つ方法が分からなかっただけだ。だが、この戦闘で使えるようになった。そしてそれは、魔法使いとしての完成を意味していた。
 しかし、カリフとの勝負を決するには至らなかった。それもそのはずだ。カリフはメイジと同等の魔力を持っているのだ。そして、上等級呪文も扱える。つまり、力量差が無い。全くの互角なのだ。メイジが勝つためには、現状に何かを加える必要があった。
 メイジは戦闘をしつつ、カリフの言葉を思い出していた。魔力と英知を備えているか? 戦闘前、カリフはそう言った。メイジは上等級呪文を会得し、カリフと渡り合っている。つまり、魔力の方はクリアしたと考えて良いはずだ。問題は英知。英知とは何なのか? 単純に考えれば、知識の事だ。あらゆる物事の知識。だが、カリフはそういった意味で発言したのではない。メイジはそう思った。真なる意味を探る。
 真っ先に思いつくのは戦法・戦術だ。戦闘において、最も欠かす事のできない要素の一つなのだ。戦法・戦術を駆使する事によって、同等の力を持つ相手はもちろん、格上の相手とも渡り合う事が出来る。勝つ事が出来る。
 カリフとの戦闘を分析する。今は単純に呪文のぶつかり合いだ。どちらかが先手を取り、どちらかがそれを相殺する。そして使用呪文は上等級呪文ばかりだ。上等級呪文は確かに強い。だが、欠点も抱えている。メイジはそう思った。とにかく発生が遅いのだ。魔力をチャージしなければ撃てない。下等級・中等級呪文には無い欠点だった。瞬間的に扱えないのだ。大技。まさにこう表現するに相応しかった。
「今は上等級呪文中心の戦い。ここに鍵があるはずだ」
 メイジが呟く。上等級呪文ばかりを使う。これは戦法において正しいと言えるのか。答えはおそらく違う。上等級呪文が重要である事は間違いない。だが、それを中心とするのは間違っているのではないか。戦闘では、その場その時で適切な行動を取る必要があるのだ。上等級呪文は魔力をチャージしなければ撃てない。つまり、初動に組み込むのは良しとしても、次の呪文に組み込むのは効率が悪いのだ。初動とトドメ。この二回のみに使う機会を絞れば。
「やってみせる」
 魔力。両手に灯す。
「またか。何度やっても同じ事。選ばれし者よ、我と汝の魔力は互角だ」
 分かっている。メイジが心の中で言った。
「イオナズンッ」
 唱えた。閃光。大爆発が巻き起こる。
「上等級呪文では埒があかんぞッ」
 カリフがイオナズンを唱えた。相殺。爆風が吹き荒れる。黒煙が巻き上がる。この時、カリフの頭の中には次の上等級呪文が浮かんでいた。これまで、上等級呪文の差し合いだったのだ。すでに魔力のチャージを始めている。メイジはこれを利用した。
「イオッ」
 下等級呪文。
「なにっ」
 両手が跳ね上げられる。チャージした魔力が四散した。さらに火炎。ギラだ。
「今更、下等級呪文だと」
 続いてメラミ。カリフが身体をひねって避ける。さらにヒャダルコ。足に絡みついた。カリフが面倒そうにベギラマで焼き払う。この時だった。メイジはすでに魔力のチャージを終わらせていた。上等級呪文。トドメだ。何を放つか。当然、決まっている。自分が得意とする火炎系呪文。各系統呪文で最大の威力を誇る呪文。
「メラゾーマッ」
 巨大な熱の塊。火球。ほとばしる。カリフが目を見開いている。
「ッ!」
 瞬間、火球がカリフを飲み込んだ。火球は火柱となり、天を貫く。焼き尽くして行く。
 火柱が消え去った後には、カリフの姿は無かった。燃え尽きたのか。それとも、単に役目を終えて消えたのか。
 終わったのか。試練を終えたのか。メイジはそう思った。
「選ばれし者よ」
 声。天からだ。
「見事であった。汝こそ、神器を扱うにふさしい者と判断する」
 部屋の中央。吹き抜けとなっている天井から、眩いばかりの光が降り注いだ。
「汝に神器、神の杖・スペルエンペラーを授ける」
 白光。眩しい。天から、一本の杖が降りてくる。黄金の杖だ。杖の先端で装飾がきらめいている。左右に開かれた翼、中央で輝く赤の宝石。
 メイジが杖を手に取る。瞬間、自身の魔力が激すのが分かった。全身が熱い。
「選ばれし者よ。この先、幾多の困難が汝を待ち受けていよう。だが、決して諦めるな。汝の力は味方の希望となり、英知となる。それを忘れてはならない。そして、我も汝と共に歩む。かつての魔人レオンと同じように。行け、選ばれし者よ。世界を救うのだ」
「……あぁ」
 ヒウロ、オリアー、神器を手に入れたぞ。メイジは心の中で呟いた。
「ルミナスへ戻る」
 メイジが、ほこらを後にする。その足取りは力強かった。

       

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