Neetel Inside 文芸新都
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「セシル? どうしたんだ!?」
 ヒウロが言う。だが、本当にセシルなのか。何かが違う。雰囲気か。目か。
「クズが私の名を呼ぶなぁっ」
 セシルが魔法剣を振り上げた。怒りで目が血走っている。殺気。そんなバカな。本気で自分を殺そうとしている。ヒウロはそう思った。
「一体、何があったんだ!」
 魔法剣が振り下ろされる。それをヒウロが稲妻の剣で弾き飛ばした。ヒウロが困惑する。どうなってる。訳が分からない。
「そこをどけっ」
 セシルが吐き捨てるように言った。ヒウロの後ろで、腰を抜かしている町人を殺そうとしているのだ。
「さっきから何を言ってるんだ!」
「ひ、ひぃぃぃ」
 町人が呻いた。恐怖で全身が竦んでいるようだ。
「ここは俺に任せるんだ。さぁ、早く逃げて」
 ヒウロが言う。それを聞いた町人が慌てふためきながら、逃げていく。
「貴様、あくまで私の邪魔をするのかッ」
「セシル、何を考えてるんだ!?」
「私は死の音速の剣士だ。クズどもを根絶やしにしてやるッ」
 瞬間、セシルの全身から邪気が溢れ出した。紫色に輝く魔法剣が、さらに大きくなる。
 セシルの手によって、ルミナスは火の海と化していた。修復中だった家屋や城壁は、無残にも崩れ去って瓦礫となり、さらには住民の死体も転がっていた。
 ヒウロが唇を噛みしめる。この破壊、この殺戮。セシルがやったのか。一体、何故。こんな事をするなんて。ヒウロはそう思った。これではまるで。
「魔族だ。セシル、お前のやった事は魔族と同じだぞッ」
「何を言ってる? 私は魔族だ」
 セシルが口元を緩めた。狂気。ヒウロがそれを感じ取る。
「お前は誰なんだ? なんでセシルの恰好をしている? セシルをどこにやった!?」
 ヒウロが稲妻の剣を構えた。
「バカな事を言う奴だ!」
 セシルが魔法剣を振る。ヒウロが稲妻の剣で受け止めた。しかし。
「こ、この力」
 強い。いや、重い。ヒウロの身体が徐々に押し込まれていく。女の、いや、人間の力ではない。
「このっ」
 ヒウロがセシルの腹を蹴った。セシルが僅かによろける。ヒウロが態勢を整えた。
「隼斬りッ」
 閃光が二度きらめく。しかし、手応えはない。魔法剣で受け止められていたのだ。
「イオッ」
 セシルの呪文。ヒウロの剣が爆発によって跳ね上げられる。セシルはその隙を見逃さない。魔法剣。袈裟斬り。肩から腰にかけて剣が振り下ろされた。
「うぐぁっ」
 鮮血。宙を舞った。さらにヒウロを蹴り飛ばす。ヒウロが瓦礫の中へ吹き飛ばされた。
「一瞬で消し飛ばすッ」
 セシルが魔法剣を頭上に掲げた。そして円を描く。魔法剣技。邪気が魔法剣に集約されていく。殺意、怨念、そういった物が渦巻いている。
「ダークネスブレイドッ」
 振り下ろした。闇。妖しく紫色に光り輝く衝撃波が、ヒウロに向かってほとばしる。
「くっ」
 瓦礫をおしのけ、ヒウロが立ち上がった。このままやられるわけには。ヒウロが衝撃波を睨みつける。そして、剣を天に突き上げた。
「ライデインッ」
 相殺してやる。ヒウロはそう思った。
「聖なる稲妻よ、いけぇッ」
 雷撃と衝撃波がぶつかり合う。

       

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