Neetel Inside ニートノベル
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~~さよなら~~

 深く、深く安らかに眠れる薬を、領主様はぼくに下さった。
 ぼくはそれを手に、あの森の小屋にかえった。
 みんなへの手紙は、領主様の館でもう書いてある。
 もしもみんなに会って、話をしたなら、気持ちがくじけてしまうかもしれない、そう思ったからだ。
 ぼくはテーブルにみんなへの手紙を置いて、さっと小屋の中を片付けると、小屋の裏手、ポリンとソルティさんが埋葬されている場所までいった。
 ここなら、埋葬するにも手間がかからないだろう。
「ポリン、ソルティさん。みてたかな。
 ぼくも今そっちへいくよ。
 ロビン、リアナ。ごめんね、ちょっと早くなっちゃったかもだけど、こうするのがきっと、一番いい方法だから……」
 ぼくは小瓶の中味を飲み干して、土の地面に横たわった。
 寝転ぶと、地面はやわらかくて、ちょっと暖かい気がした。
 見上げると、木漏れ日がきらきらときれいで。
 なんでかそれは、じわっとぬれてにじんできた。

 ごめんなさい、お義父さん、お義母さん。
 でも、ぼくよりずっとしっかりした“孫”たちが、けしてひとを傷つけたりなんかしない、ちゃんとした人間のみんなが、きっと支えてくれるはずだから。

 アンディたちや、ほかのみんなはなんて思うかな。
 みんなへの手紙には『ぼくもリアナとおなじ、長くは生きられない身体だった。もう寿命みたいです。ごめんなさい』とだけかいておいたから。
(ぼくの正体のことは、アンディたちしかしらない。だからもちろん手紙にも、詳しいことは書けなかった――もし書いたら、頭がおかしくなったか、領主様の弟君を殺したことを作り話でごまかしたのだ、と思われるのが関の山。それにあんなひどいこと、みんなに知らせたくはなかったし。)


 みんなきっと、悲しむよね。
 ――あんまり悲しまないでくれるといいな。
 ぼくは、ひとあし先に行くだけなんだから。
 何年あとになるかはわかんなくても、会いたければまた会えるんだし。

 魂のかえる天の国。どんなとこなんだろう。
 ぼくを生んだ、お父さんとお母さんも、待ってくれてるはず。
 おじいちゃんとおばあちゃんにも会えるかな。

 薬が効いてきたようだ。頭がぼうっとしてきた。
 眠い。すごく眠い。
 あったかくてきもちいい。ちょっとだけ眠ろう。おやすみなさい、そしてちょっとだけさよなら、みんな。



『ちょっとなによこれ?!』
 そのとき、叫び声がぼくをたたき起こした。
『なんで?! なんでまた生きてるの?!
 やっと死ねたと思ったのに……
 なんでソウルイーターがこんなところに……!』
 ぼくはぎょっとした。目を開ける、身体を起こす。
 誰もいない。まわりには。
 恐る恐る声をかけたら……
「あの……どなたかいらっしゃいますか……?」
『どなたもこなたも!!!』
 いた。
 ぼくのなかに。
 ちょうど、亡くなったときのリアナと同じ年頃の、でももっと、ずっと勝気そうな少女が。
 彼女はとんでもないイキオイでまくしたてた。
『ソウルイーターのクセに、なんだって自殺なんかしくさったのよ! よりによってあたしが死んだ、その日その時そのご近所でっ!!
 あたしが死ぬのにどれほど苦労したとおもってんの! セキニンとってよセキニン!!』
「あ……あの……」
『あんたはクレフ、あたしはアリス。
 おなじソウルイーターよ!』

       

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